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にとり4 新ろだ87 長月の終わりごろのこと――― 『八雲紫プレゼンツ!! あなたも恋人と一緒に外界を旅行してみませんか? 希望者は―――』 今、幻想郷はこの話題で持ちきりだ。 「―――なあ、にとり。」 作業場での仕事が終わってすぐのこと。 俺は休憩スペースでジョージア片手にテレビを見ながら我が恋人、――にとりに問いかける。 「んぁー?」 にとりは俺のズーマー(名をアーデルハイト、という)をバラしている最中なためか、生返事だった。 ……たった今、シートフレームまで外され、一見大き目のキックボードのような外見になった。そのままでも走れそうだ。 「俺たちは外界へ行ったりしないのか?」 「あー…やめといたほうがいいよ? 私たちはいつでもいけるし……」 作業を続けたまま答える。 あまり気乗りしないようである。 「確かに行こうと思えば俺たちは行けるけど……」 妖怪の山の内部は要塞になっているわけだが、内部には外に通じる穴、というものもあり外界の各地へ出ることができる。 元・外来人の俺は引率者としてにとりや、他の河童さんたちを連れてよく外の世界に行く。 目的は技術を学んだり普通に観光したり、と様々だ。 河童さんや天狗さんたちからもらえるチップ、おいしいです(^q^) 俺の密かな収入源だったりする。 「いやあ……だって……この前紫が私たち河童にある『モノ』を作って欲しい、って来たんだけどなんだと思う?」 「そういえば最近技術開発部のやつらがなんか作ってたが……わかんねえな……なんだ?」 「……『追跡機能とステレス機能を持ったビデオカメラ』……」 「へ?」 それは……またあからさまな…… 「目的は明らかに盗撮だよ?」 作業をしながら俺に言う。 あ、プーリー交換もしてくれるんですか。ありがたいです。ウェイトの調整ってシビアだけどがんばってね? 「……かもな……」 「まあ、ぶっちゃけ目的は聞いてるんだけどね?」 にとりの話によると、何でも霜月の初めの宴会で余興として放映するんだと。 なんとまあ……たちの悪い話だ。 「……○○は……行きたいの……?」 正直、すごく行きたい。 確かに、外界はいつでも行ける俺らは、今回の企画にホイホイついていく必要はない。 企画の全貌を知っているだけになおさら、だ。 だが、普段の場合は、実は一日以上外界に居てはいけない、という制限つきだ。 今回の企画はそれに対して一月。魅力的な長さではないだろうか。 それに、普段は引率という身分からにとりと存分にイチャつけない。 ああ!存分にイチャつきてえんだ!!!! 「と、いうわけでお前と、2人っきりで外に行きたいんだ。」 その旨を伝えると、にとりの手がぴたり、と止まった。 「………うーん……」 やっぱり企画内容を知ってるだけに、躊躇われるか。 まあ、ダメならダメでいいか。にとりの嫌がることは基本的にしないのが俺の流儀だ。 「やっぱり嫌だよな。うん。ならいい。もともとだめもとだったから。だから……「いんや、いいよ。」 俺の言葉を遮るようににとりは言った。 そして、作業をやめ、俺の方に来て同じベンチに座るのだった。 「……え?……それは……一緒に行こう、ってこと?」 「うん。よく考えたら断る理由ないしね。確かに一月の旅は魅力的だもんね。」 「……見られるの、嫌じゃなかったのか?」 「いつ嫌って言った? むしろさあ……見せ付けちゃおうよ、ねえ。」 そう言って、俺に抱きつき、軽く口付ける。 「私だって外界でやりたいこと、あるしね。」 「やりたいこと?」 「まあ、それはあとでのお楽しみ。 ねえ、行こうよ、○○。イチャイチャしようよw」 「ああ。おkだ。みんなの中で一番イチャつこうなw」 「ふふ、 みんなに引かれない程度にねw」 お返しに今度はこちらから口付ける。今度は濃厚なキス。そして、2人の影は重なり―― 『そこまでよ!』に引っかかりました。この先を見るにはワッフルが云々。 そんなこんなで、俺らも外界に行くことにした。 ――――― キング・クリムゾン!! 旅行中俺がにとりとイチャついたという時間は吹き飛んだ…… ――――― 霜月の初めごろのこと――― 俺とにとりの旅の様子が放映されたのだが…… 「『そこまでよ!』ばっかりじゃねえか!!」 みんながぽかん、としてる中、空を裂くように黒白の魔女はそう、不満を述べた。 魔理沙の言うとおり、『そこまでよ!』が他の追随を許さず多かった。 他の幻想郷住人は一月のうち、多い組でもせいぜい4、5回程度だったのだが、俺らは一週間に4、5回程度だった。 「ふむ……さすがに多かったか。」 「…………うぅ………」 出発前の威勢はどこへやら、さすがに恥ずかしかったのかにとりはうつむいている。 「……○○ぅ~……ちょーはずい~」 涙目で抱きついてくるにとり。ああ、かわいすぎだろ、jk。 「いや……でも……ほら、見せつけるんじゃなかったのか?」 「確かにそう言ったけど!」 「肝心のシーンはカットされてたけどな……」 「放映されてたまるか!!……うぅ……」 涙を拭くように、顔を俺になすりつけてくる。 そして、少々落ち着いてから言う。 「……でも、」 「でも?」 「行ってよかったとは思ってるよ? ○○とは、夫婦になれたし……w」 そう、俺たちは夫婦となった。 にとりのやりたかったこと、それは俺の両親に挨拶、そして小さいながらも結婚式だった。 そして、俺はその望みを叶えてやったのだ。……俺もそう望んでたし。 しかし……改めて意識すると…… 「…………」 顔からマスタースパークDA!くらい恥ずかしい。 「○○顔あかーい!!ww」 「うるせぇ!酒だ酒!!酒の所為だ!ww畜生!!……不束者ですが、よろしくお願いします。」 「あはは、こっちこそ、よろしくww」 こうして、また『そこまでよ!』的に夜が更けていくのであった。 めでたしに限りなく近い何か。 ――――約十ヶ月後のこと、俺たちに対抗意識を燃やしたためか幻想郷にベビーブームが到来するのはまた別のお話。 ―設定、と言う名の後付― ○○:人間。外来人。多分主人公。 山でエンジニアとして働いてる。 ある日、みょんなことから幻想郷に迷い込む。しかも妖怪の山に。 そこでにとりに助けられて、それで(省略されました。希望があったら表示されます。甘いです。表示するにはメル欄ににっとりにっとりしてください。)で、現在に至る。 にとり:妖怪。河童。多分ヒロイン。 ○○の嫁。『そこまでよ!』が多かったのは「河童だからえろいんだろうな……エロガッパって言う言葉あるし。」という安直な考えによるもの。俺の妄想は大半が『そこまでよ!』に引っかかる。 それにしても『そこまでよ!』って便利だな。 ちなみに、恋人になる段階では告白は○○からだが、結婚しよう、はにとりから。 まあ、両親に挨拶に行く話があるのだが……(省略されました。希望があったら表示されます。甘いです。表示するにはメル欄ににっとりにっとりしてください。) 新ろだ91 目を閉じても、真っ暗な闇。 視覚という最も機能する感覚器官を閉じれば、次に活動し始めるのは触覚と聴覚といったところか。 そうして俺は何よりも旨い美酒を飲み干し、喉を通る熱さを堪能する。 幸福なときに呑む酒ほど旨いものは無い。 耳に届く音はそう多くない。 河の幽かなせせらぎ。 活発になるには少し早い虫の音。 水を切る泡音。 そして――愛する人の声。 「気持ち良いねぇ」 目を開けると、爽やかな音を立ててにとりが俺の座る川岸へ上がった。 「そうだな、すごく気持ち良い」 俺の傍にあった盆から自分の御猪口を取り、ちびりと口を付ける。 そして熱い息を吐き出す。 ――山の中の河の畔。 外界ツアーの流行も一段落して、俺たちの生活に幻想郷の日常が戻ってきた。 彼女もそれを受け入れて、久しぶりにこうして河での遊泳を楽しんでいる。 「ねー、ほんとに○○は泳がないの? こんなに気持ち良いのに」 「さすがに寒いって。人間はこんな時期に水遊びしないんだぜ?」 「そーだけどさぁ。あたしと一緒に泳ぎたくないわけ?」 「夏にあれだけ泳いでおいてよく言うぜ。風邪引くのは勘弁なんだって」 苦笑しつつそう返すと、にとりは唇を尖らせる。 「ちぇっ。もう一泳ぎしよっと」 「おう、いってら」 「見てなよー、このあたしの水捌き!」 見ろ、ときみがそう言うなら仕方ない。 ――仕方ないよな。 そう自分に言い聞かせて目を少し開け、見えた光景はあまりにやばい。 まったく……参っちゃうよな。 雲間からうっすらと覗く月光が照らすのは、健康的な彼女の肢体。 女性らしい丸みもふくらみも余すところ無く描きだす銀盤の光を、今ほど美しいと思ったことは無い。 劣情なんて粉微塵に吹き飛ばすくらいに綺麗で、他の何も見えないほどに見蕩れる。 こんなに暗い夜中だから――誰も見てないよね―― そんな理由で始めた水中遊泳が、もうかれこれ一刻。 くらくらするのは酒精のせいだ。 時間を忘れたのも酒精のせいだ。 陸では油の匂いに見たされている彼女の、女性としての色香。 それは俺にとっての何よりの美酒だった。 まぁ、油臭い彼女も同じくらい魅力的ではあるんだが。 つまるところ、要するに、ギャップ萌えだ。 前に前に水を蹴る白い影はぐんぐんと進み、 遠く対岸でくるっ、クイックターン。 普段は厚いブーツに包まれている白い足がイルカのように水を叩く。 その速さとは対照的に、河に立つ波紋は驚くほどに繊細。幾重にも広がって、シャイに川面を揺らす。 「俺も河童だったら良かったのかな……」 この寒さの中で彼女の横を並んで泳ぐ誰かを想像をしてみる。 誰か? それは、誰だ? あと二十五メートル。 遠く感じるその距離はしかしみるみる縮まって、俺のいる飛び込み台へとタッチ。 しかしにとりは上がってこない。 青い髪だけを水面に揺らして、ぶくぶくと何かを唱えている。 「どうした? もう一回行ってくる?」 無言。 それも、気まずい類の無言。 何かを考えているのだろうか。もしかして、さっき俺が考えていたのと同じようなことを? だとして、ならばどんな《続き》を? 不安に思うのと同時に、俺は身を乗り出していた。 にとりはそれに瞬時に気付いたのだろうか、にっかりと満面の笑みを浮かべて俺を水の中に誘い込んだ。 強く強く、愛おしい――抱きしめたい――離したくない――とばかりに。 「ざっぶーんとね」 「河童の本分……か」 「まーね。いっひっひ」 にとりは俺を見下ろして、してやったりと言った風に笑う。 浅瀬とはいえ、下着までびしょ濡れになってしまった。 「……俺が風邪引いたらどうするつもりよ?」 「そんときゃーそんとき。分かりきったことじゃないの。このあたしが、心を込めて看病してあげるよ」 「そりゃありがたいことでござんすね。ま、こうなっちまった以上は仕方ないな」 たっぷりと水を吸った服を脱ぎ捨てる。 愛を孕んだ夜の水温は思っていたより温く温かく、まるで俺を待ち受けていたかのようだった。 「それじゃ、泳ぐか」 「やたー!」 「……あ、その前に一つ。んー」 「――ん」 ついばむようなキス。 自分からこんなことをねだるのは、恐らく初めてだろう。でもこういうのも悪くないよな。 俺が済んだら今度はにとり。ねだる彼女にも愛を贈る。 交歓が終わって、にとりは今更ながらにはにかむ。その表情は、俺の不安を完全に消し去った。 好きな人と、好きな人を、再度、確認する。 水のなかで交し合う愛は、いつも以上に深く穏やかだった。 後日俺が風邪を引いて寝込んだのは言うまでもない。 しかも運悪くこじらせたとかいう、そんなオチ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ93 神無月のこと――― 「―――注意点は以上。何か要望があればあとでこちらへ、可能な限り三つまで、叶えてあげるわ。それじゃあ、解散。神無月の終わりに会いましょう。」 今回の企画者にして妖怪の大賢者――八雲紫がそういうと、今回の外界旅行企画が始まった。みんな各々目的地へ向かった。 さて、俺たちも行くか、と、その前に、ある要望をしに、まずは紫のところへ行くのだった。 「こんにちは、紫。」 「お今日は。要望、かしら?」 「ああ、2つほど、いいかね?」 俺の望み、 まず。せめて九州の北の端でもかまわないからこっそりスキマで送って欲しい、ということ。 みんなは鉄道を主に利用するが、俺たちはバイクで、と思っていたが…… だがいかんせん、東京~鹿児島間は流石に遠すぎる、と言うわけだ。 紫は、関門海峡(山口側)まで送ってくれた。 九州縦断がノルマとして課せられた。 次に。愛車、ZOOMER、アーデルハイトを公道で走れるようにして欲しい、と言うこと。 と言うのも、俺が幻想入りしてきたときはZOOMERは原付一種登録。ナンバーもそのままだ。現在、こいつはエンジンをシグナスのエンジン(E3B1E型、FI仕様、なぜか工場に出回ってきてた。)しかも199ccにボアアップされたものを搭載している。(にとりと俺が仕事後の遊びで改造したんだが……まさかこんなとこで出番が来るとは……) また、俺の免許も原付一種免許。199ccZOOMERは運転できない。 これでは公道も走れないし、にとりとタンデムもできねえ。 紫は、ナンバーの境界をいじり普通二輪登録に、免許の境界をいじり普通二輪免許に換えた。おまけと言ってはなんだが材質の境界をいじってフレームの剛性まで強くしてもらった。ありがたい限りだ。 「他には?あと一つ、残ってるけど……」 「いや、それはもしも、のときのために一応とっておく。」 「それはそれは、賢明な判断ね。では、さようなら。もしものことがないよう、祈っておきますわ。」 そう言うと、伴侶とともにスキマへ消えていった。 また東京駅だろうか、それとも目的地だろうか……行方は分からないが多分東京駅だろ。旅行はむしろ目的地より旅路のほうが楽しいしな。 「さて……にとり。」 恋人――にとりに話しかける。緑色のパーカーに紺のオーバーオール、いつもの帽子。早苗さん、もとい、どこかの配管工弟を思わせる格好だ。それも、にとりが着ればすごくかわええ。ああ、もう、かわええ。 ちなみに、髪の色は外界人が見て違和感のない色になっている。紫が色の境界を弄ったのだ。にとりはきれいな黒髪。もともとのくせっ毛はそのままだがさわり心地はいいもんだ。 「本当に鹿児島――俺の故郷でいいのか?」 「うん。」 「秋葉とかでなくっていいの?」 「いいの、私には目的があるんだから。」 「結局目的ってなに?」 「まだ秘密。秘密も河童のたしなみよ?」 こんな感じで最近はぐらかされてばっかだ。 まあ、そのときが来れば分かるのだろう、いっか。 そして快適とは言えない旅が始まった。 普通二輪登録のためタンデムで高速に普通に乗れる。 エンジンも約200ccとパワフル、他の車の流れを止めるようなこともなかったし、元が50cc原付のボディのためすり抜けもスイスイ。渋滞知らずだった。 ただ、その車両が小さく、シートもノーマルのままなため、にとりとぴったりと密着する形で走り続けた。 ああ、背中にやわらかき、大きくはないがとてもやわらかい双丘が……と、景色を見る余裕があまりなかったのは内緒だ。 ―――― 観光しながら、だったため鹿児島に来るまでに三日かかってしまった。 空港を過ぎ、桜島が見えると、ああ、鹿児島に帰ってきたんだな、と実感した。 ―――― 俺の家は田舎の鹿児島の中でも島を除いて最も、と言えるほどド田舎にある。 四方を八つの山に囲まれて集落の分類的には日なた集落に分類される、陸の孤島のような場所だ。 コンビニなんかない。約10km先にはあるが。と言うかまず店がない。 いまだにワンセグは映らないし光も通ってない。 だが微妙に文明的なとこもある。ネットも繋がるしオール電化している家もちらほら。上空からは多くのソーラーパネルも数多く見える。 その雰囲気は、なんというか、ちょっと発展した幻想郷、って感じだ。 「うーん、空気がおいしい! 外界にもこんなとこあったんだね!」 「ああ、ここが、俺の故郷だ。」 そして、家に着く。昼過ぎだったため、母屋には誰も居ない。 「○○ー、ご両親居るー?」 「いや、居ないみたいだ。」 「仕事?」 「たぶんな。」 仕事場に向かうことにした。 それにしても、俺が幻想郷に行って1年。ここはちっともかわんねえな…… そうそう、こっちに、俺が幻想郷に居る、って事は両親も了解済みだ。 以前、山の妖怪の案内者としてこっちに戻ってきたとき、手紙を出しておいた。 『俺は幻想郷に住むことにした』という旨を書いて。 すると一月もしないうちに返事がきた。文が何所からともなく持って来てくれた。どういうシステムなんだろう? 『了解、体に気をつけて、たまには帰ってくること』と書かれていた。 おおらかな両親を持ってよかったと思う。 仕事場へ着く。 「うわぁ……」 「ふぇ~……」 俺とにとりはあっけにとられていた。 前言撤回。ちっとも変わってないなんて嘘だ。 俺の記憶ではただの粗放な荒地だった我が家の土地が大規模に、無秩序に農園化していた。 定年後、大量の土地と金を持て余した父と母は俺というすねかじりが居なくなったことで大農園、ともいえるほどの農地を作っていた。季節の野菜、果物、物珍しさで始めたのか、南国のフルーツまで栽培していた。下手すると幻想郷よりも取れる野菜や果物は種類も量も多いかもしれない。 その巨大ともいえる畑の中に、大柄の、少々年老いた農夫が立っていた。 こちらに気づいたのか、近づいて来た。 「はは、ただいま……」 「おめぇ!○○!!帰ってきたか!!がっはっは!彼女まで連れておい!おーい!かーさーんかーさーん!○○が―――― (あまりにも暑苦しいので省略されました。何をしたって表示されません。) side Nitori ―――――― 「おめぇ、幻想郷とかいう異世界で働くってか?すげぇな!おい!」 「ああ、ほんに。工学系の需要があって助かったってとこよ。」 「しかしおい、○○ちゃんよぉ、こげなよかおなごつれて、おいも連れて行ってくれんか?w」 「やいや、あっちは妖怪がおっでね。わなんか喰われっちまうよ。」 「んだもしたんっ、おいがそんなか弱く見えっか!?」 今、私は○○の家でご馳走になってる。……近所の人もなぜか加わって。 ○○の幼馴染たちだとか、他の村の人だとか、村長だとか。 うう、何言ってるか分からない……翻訳はあとがきに任せよう…… いつだったか「鹿児島は事あるごとに宴会を開きたがる」って○○が言ってたけど、まさにその通りだ。 メニューは……とんこつにさつま揚げ、きびなごの刺身に鶏肉の刺身、それから焼酎。 うん、どれもおいしい。 「おかわりはいかが?にとりさん?まだまだごはんはありますよ?w」 「あ、ええ、お構いなく。お料理おいしいです。あ、なにかお手伝いしましょうか!?」 「あらあら、ありがとうw いいの、座ってて、あなたはお客さんなんだから。」 ○○のお母さんが言う。 うう、申し訳ないな……他の女の人、みんな働いてるじゃん…… ……それにしても、これだけの料理、私が来て半日もしないうちに用意されたけど……すごいな…… うーん……それにしても……このままじゃ、私の計画が果たされないままなんだよな…… 「おぅい!にとりちゃん!!ちょっ、こけけ!」 「こけ……?」 鶏? 「ああ、「こっちこい」って意味だ。と言うわけで、来て。」 そのあと、いろいろ質問された。馴れ初めだとか。言葉の壁があったからかなり時間かかったけどね。 ―――― 「ふぅ……疲れたな……w」 「ああ、すまんかったな、うちの衆が。」 「いやいやw みんな愉快な人だねw」 今は騒ぎの中心から離れて○○と二人きりでいる。 そこへ…… 「お疲れ、大変そうだったねw」 ○○と同世代位の若い女の人が来た。 「隣、いい? 私、幼って言うの。○○の幼馴染。よろしくw」 「え?ああ、よ、よろしく。」 「なんだよ、冷やかしに着たのか?w」 「いんや、焼きもち焼きに来ただけ。いいなー。私もこんな彼女欲しいな~w」 そして、抱きついてきた! 「え?え?」 「あ、気をつけろ、こいつバイだから。……しかも酔ってんな。」 私から幼さんを引き剥がす。 「うぅー!○○の鬼ー悪魔ー独裁者ー。独占禁止法でかわいい子は私が所有することになってるんだぞー!」 「言ってることがめちゃくちゃだな……にとり、気にすんな。こいつはいつも訳分からん。酔ってるとなおさらだ。」 「え?ああ、うん。」 それより、○○にべたべたしすぎだよ、この人…… 幼馴染とはいえ、仲良すぎじゃない?そういうもんなの? うう…… 「訳わかんないってなにさー!馬鹿か!?私は馬鹿なのか!?」 「いやいや、馬鹿だろwいかんともしがたく。お前は無知すぎるもん。昔、俺の生まれた場所を横浜県って言ってたもん。」 「いいや!馬鹿じゃないね!!無知でもない!!その証拠に私は○○のことで知らないことは何にもない!!何にもないもんね!!にとりさんより知ってるもんね!!………っと」 「嘘付けwほら、もうふらふらしてるじゃないか……よっと。」 「私は……馬鹿じゃ……ないもん………」 寝てしまった。……○○の膝枕で。 うう、うらやましい。妬ましい。パルパルしい。 「ふう、昔っからこの調子だもんな。こいつ、酔うと寝ちまう癖があるんだよw」 「……ねえ、○○。」 「ん?」 「この…幼さんのこと、どう思う?」 私は……ちょっと○○の恋人であることに自信なくしたかもしれない。 よく考えたら、私は○○のこと、知らないことばっかりじゃないか!! それで、務まるのかな?恋人が……… それで、務まるのかな?……… もしかしたら……○○は幼さんのことがすきなんじゃ…… 「どう思う?って……好きか嫌いか?ってこと?そりゃ、好きだよ。」 やっぱり。 「……でも、」 つけたす○○。 「多分、お前の懸念している「好き」とは違うと思うぞ?」 「………え?」 「あいつを好きなのはアレだな。家族愛的なやつだ。今、恋人として好きなのはにとりだ。」 「でも……わたし、○○のこと幼さんと比べたらまだ知らないこといっぱいあるし!」 「あー……さっきのあいつの言葉気にしてるのか?」 「……うん……」 「さらに言うと気兼ねなくべたべたしてくるのに焼きもちを焼いてるんじゃないか?」 「う………うん………」 「さっきも言ったけど、こいつは家族みたいなもんだ。気にすんな。……それに、こいつはもう夫居るからな?あの騒いでる中心にいる愉快な男だ。」 「あ…そうなんだ……w」 「それから、こいつの言葉も気にすんな。知らないことはない分けないだろ?確かに、お前は俺を、過去の俺を知ってるわけじゃねえ。」 そう、そうだよ。それで恋人が務まるのか…… 「でも、それでいいんだ。」 「………え?」 「よく考えろ。俺も同じだ。俺もにとりの過去を知ってるわけじゃねえ。」 あ……ほんとだ…… 「過去は今から知っていけばいいんだよ。いいんだ、てげてげで。終わったことなんだから。」 「……てげてげ?」 聞きなれない単語だ。方言かな? 「ああ、適当とか、肩の力を抜いてとか、そんな感じのニュアンスで使う鹿児島弁だ。……いいか、よく聞けよ、」 ○○は一呼吸おいた。 「いいんだよ、全てはてげてげで。こいつは両親の受け売りだ。てげてげでいいんだよ。過ぎたるは猶及ばざるが如し、って言うだろ。今回だってそう。深く考えすぎるからいけねえんだ。肩肘突っ張るからいけないんだ。これからもてげてげでいいんだよ。肩の力抜いていけばいいんだよ。おk?」 「………うん!」 「あと……一応言っとくが……その……俺は……過去よりも……お前と一緒に居る現在と未来のほうがよっぽど好きだからな!」 よかった。過去はこれから知っていけばいいのか。 私たちは未来を作っていけばいいのか! よし!その未来を、輝かしい未来を作るためにも…… 「ところで○○、今のはプロポーズ、ってとっていいのかな?」 「え?えー……えーと……」 「わかった!結婚しよう!○○!」 「………へ?」 「だから結婚しよう!一緒に未来を作ろう!」 side ○○ ―――― そして宴は終わり、片付けもすんだ後…… ○○のご両親、俺とにとりはちゃぶ台をはさんで、向かい合ってる。 「……えーと、と言うわけで、俺たち、結婚することになりました。」 「ふつつかものですが、よろしくお願いします。」 畜生によによすんな。 ……俺とにとりは結婚することになった。 両親は快く承諾。放任主義杉じゃね? 翌日、村の小さな神社で小さな結婚式をした。 ドレスもケーキもない。ぶっちゃけ、いつもの宴会と変わらない。 でも、俺たちは結婚した。 ………急展開過ぎる気もするがな。まあ、いいや、俺は今幸せなんだ。そんな考えは野暮だね。 ―――結婚初夜。寝室、布団の上にて。 「……なあ、にとり、本当に俺でよかったのか?」 「何言ってんの。」 俺に詰め寄るにとり。 「○○だから、良かったのよ。」 「………」 「○○顔あっか~い!!ww」 「う、うるせぇ!!w」 「………○○、てげてげにがんばって行こうねw」 「早速使いこなしてるなwああ、てげてげに、な。」 そう言って、にとりにキスをする。 ああ、一緒に思い出を作っていこう。てげてげに、な。 (『そこまでよ!』に云々。) ―――― 翌日。 両親がによによしている。畜生。こっぱずかしいぜ。 ―――― 「ところで……お前の目的ってなんだったの?」 「……○○のご両親に会って「息子さんを私にください!」って言って○○とご両親いっぺんに脅かそうと思ったけど……ちょっと計画違いで○○だけになっちゃったね。」 「………最初から結婚しに来てたのか!!?」 「うん。ご両親に挨拶、が私の目的。まあ、成功でいいよね?」 「え……?まあ、いいんじゃないか?」 「てげてげでいいじゃないの。」 「………気に入ったのか、それ。」 ―――― おしまい。 ―あとがきと言う名の大蛇足。― おはこんばんちは。「にっとりにっとり」が予想以上に多すぎて構想が固まってないまま書き進めた結果がこれだよ!! 今日模試で疲弊しきった脳を休めるにはイチャスレが一番だなあ………ww 明日も模試だけど。 とりあえず、神無月ツアーが終わってしまったのに投稿しても良かったものか、と。 これがツアーはほんとに最期です。にっとりにっとりしても後は俺とにとりの出会いくらいしかありません。 今回の文章、何を書きたかったこと。 ・幼馴染に嫉妬するにとり。 俺の文章能力低すぎて全然表現できなかったけど。嫉妬されるってことはそれだけ愛される、ってことなんだよね。ああ、にとりかわええ。 ・鹿児島の気質。 豪快で大らか、そんな感じを読み取ってもらえれば幸いです。方言を出したのもそれを表現したかったから。他見の人から見るともはや別の言語らしいけど、今回は分かりやすそうなのをチョイスしてみた。 一度でもいいんで訪れてみてください。マジで田舎です。 ・「てげてげ」 てげてげ、いい言葉です。文脈で結構意味が変化する。実際は原住民くらいしか使いこなせないと思う。文中の意味は飽くまで一例。俺の人生観でもあります。俺はなすがままに生きている。うん、どうでもいいね。みんなも使ってみてください、てげてげ。アクセントは平坦に。(→→→→)。実は「てげ」と、単品で使ったりもする。単品だと地域によっては形容詞の強意の意味も含まれてくる。単品の場合、アクセントは「げ」に。(→↑)。 今回限りの人物設定。 幼:人間。幼馴染。 ○○の幼馴染。⑨。 名前は「幼」馴染から。 馴:人間。幼馴染。 ○○の幼馴染。愉快。 名前すら本文には出なかったという…… 一応名前は考えた。今。5秒で。 名前は幼「馴」染から。 おまけの日本語訳。 「おめぇ、幻想郷とかいう異世界で働くってか?すげぇな!おい!」 『お前、幻想郷とか言う世界で働くって?すごいな、そりゃ。』 「ああ、ほんに。工学系の需要があって助かったってとこよ。」 『ああ、ほんとだ。工学系の需要があって助かったよ。』 「しかしおい、○○ちゃんよぉ、こげなよかおなごつれて……おいも連れて行ってくれんか?w」 『しかしさあ、○○ちゃんよ、こんなにかわいい女の子彼女にして……俺も連れて行ってくれないか?w』 「やいや、あっちは妖怪がおっでね。わなんか喰われっちまうよ。」 『いやいや、あっちには妖怪が居るからね。お前さんなんか食われてしまうよ。』 「んだもしたんっ、おいがそんなか弱く見えっか!?」 『いやいや、俺がそんなに弱く見えるかい!?』 こんな感じ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ422 俺があの娘に出会ったのはあの世界、幻想郷に迷い込んですぐの事だ。 山道を走ってる時、居眠りしてたみたいでな。車が川に落ちたんだ。何とか車から外に這い出たんだが、水のなかは真っ暗で上も下も分からなかった。もうだめだと思ったとき、急に手がひっぱられて川から引き上げてもらったんだ。 「それが例の?」 そう、そいつがにとりだ。 彼女は幻想郷の事を教えてくれたんだが、俺は混乱しててな、その時はよくわからなかったんだ。 妖怪だの河童だのと言われてもピンと来なかった。にとりだって見た目は人間の女の子とぜんぜん変わらないんだ。 まぁ、妙なレーザーやら光弾やらをばらまいて戦ってる様を見せられたら信じざるをえなかったけどね。 「それは面妖だね。怖くなかった?」 怖くはなかったよ、彼女は人間に友好的らしいし何より・・・可愛かったからな。ひょっとしたらそのときにはもう彼女に惹かれていたのかもしれない。それに、まだ本当の意味では妖怪の事が分かってなかったんだよ・・・ 「そうか。それできみはどうしたんだい?」 ああ、それから博麗神社って所につれていってもらったんだ。元の世界に帰るにはそこしかないそうだ。 だけど結界が不調だとかでしばらく俺は幻想郷にとどまる事になった。 それでしばらくは人間の里ってとこで暮らしたんだ。 にとりがたまに様子を見に来てくれてな。そのとき二人で遊んだりしたんだよ。 それからしばらくたって神社の巫女さんが結界が直ったって言いにきてな。 元の世界に帰るか幻想郷にとどまるか決めろと言われたんだ。 「それで君は帰ってきたのかい?」 いや、そのときは帰る気なんか無くなってた。にとりと離れたくなかったんだ。 そのときには彼女の存在は俺の中でとてつもなく大きなものになっていて、にとりと離れ離れになるなんて考えられなかった。 俺はすぐににとりに会いに行って自分の正直な気持ちをぶつけた、そして彼女はそれを受け入れてくれた。 俺たちは恋人同士になったんだ。 「でも君は彼女を置いてここにいる。どうしてなんだい?」 怖くなったんだ、妖怪が。 ある日、俺は傷だらけの男を見つけた。そいつは死にかけていてもう一歩も歩けそうになかった。 そこへ誰かが近づいてそいつの近くで屈んだんだ。そしてやつは、やつは・・・ 「何があったんだい?」 やつは人間を喰っていたんだ。倒れていた男の体がガクガクと痙攣してから動かなくなって一面に血が・・・ 「人が殺されたのか!?」 そうだ、あのときのことはあまり思い出したくない 俺はその場から逃げ出し、博麗神社へ逃げ込んだんだ。 その場で巫女に頼み込み外に出してもらった。 妖怪そのものが恐ろしくなったんだ。 「そうか・・・でも君は以前その幻想郷という所に帰りたいと言っているね。 それはどうしてなんだい。」 俺は逃げる時、にとりと会ったんだ。そのときは半狂乱で自分がなにを言ったのか分からなかった、でも今なら分かる。 俺はにとりに 「俺に近づくな!!このバケモノめ!!」 と叫んで石を投げつけた。にとりは信じられないものを見たように震えていた。 そんなにとりを突き飛ばして俺は逃げたんだ。 そんなつもりじゃなかったんだ。ただ怖かったんだ。 にとりにはひどい事をしてしまった。謝っても許してもらえないかもしえない。 それでも、俺は帰らないといけない、帰ってにとりに謝るんだ、そうしなくてはいけないんだっ!! 「落ち着くんだ、 落ち付けだ!?こんな所に閉じ込めていつもいつも同じ質問ばかり繰り返して!? いいかげんにしろ!!俺はお前らが力になるというからついて来たんだ!! (椅子を蹴倒す音) さぁ!!俺が知っている事は全部話した!!お前の番だ!!約束どおり幻想郷への行き方を教えろ!! 早く!!早く!! (ドアが開き数人の足音) クソッ!!放せ!!畜生っ!!畜生っ!! (数人がもみ合う音) にとりに謝らなくちゃ、謝らなきゃ・・・会いたい、会いたいよ・・・ ☆☆精神病院 58492号患者○○ 8月29日 カウンセリングの記録テープより抜粋 58492号患者のカルテより 名前 ○○ 症状 一時的錯乱 ××山中にて発見、極度の錯乱状態が見受けられ地元の病院で治療の後、当施設へ搬送される。 自動車事故によるショックか、事故より数日間は幻覚症状および記憶の混濁が認められる 現在は幻覚などの症状は現れていないが、一時的に現実からの遊離症状が見受けられる。 日常生活に支障はないと思われるが、一時的に錯乱症状が現れる事があるため 今しばらくは隔離施設での集中治療が必要である 事件報告書 9月1日の停電時58492号患者が失踪。停電時から予備電源に切り替える数秒、つまり監視カメラが再起動する短時間で失踪したと思われる。 隔離施設の扉は内側からは開けられない構造のため協力者がいたと思われる。 だが不可解なのは失踪後どの監視カメラにも姿がまったく映っていない事、そして何よりも隔離施設のドアに開閉した痕跡がまったくない点である。そう、まるでその場で消失したような 現在隠し通路やカメラへの細工が疑われている。 ───────────────────────────────────────────────────────────
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目を閉じても、真っ暗な闇。 視覚という最も機能する感覚器官を閉じれば、次に活動し始めるのは触覚と聴覚といったところか。 そうして俺は何よりも旨い美酒を飲み干し、喉を通る熱さを堪能する。 幸福なときに呑む酒ほど旨いものは無い。 耳に届く音はそう多くない。 河の幽かなせせらぎ。 活発になるには少し早い虫の音。 水を切る泡音。 そして――愛する人の声。 「気持ち良いねぇ」 目を開けると、爽やかな音を立ててにとりが俺の座る川岸へ上がった。 「そうだな、すごく気持ち良い」 俺の傍にあった盆から自分の御猪口を取り、ちびりと口を付ける。 そして熱い息を吐き出す。 ――山の中の河の畔。 外界ツアーの流行も一段落して、俺たちの生活に幻想郷の日常が戻ってきた。 彼女もそれを受け入れて、久しぶりにこうして河での遊泳を楽しんでいる。 「ねー、ほんとに○○は泳がないの? こんなに気持ち良いのに」 「さすがに寒いって。人間はこんな時期に水遊びしないんだぜ?」 「そーだけどさぁ。あたしと一緒に泳ぎたくないわけ?」 「夏にあれだけ泳いでおいてよく言うぜ。風邪引くのは勘弁なんだって」 苦笑しつつそう返すと、にとりは唇を尖らせる。 「ちぇっ。もう一泳ぎしよっと」 「おう、いってら」 「見てなよー、このあたしの水捌き!」 見ろ、ときみがそう言うなら仕方ない。 ――仕方ないよな。 そう自分に言い聞かせて目を少し開け、見えた光景はあまりにやばい。 まったく……参っちゃうよな。 雲間からうっすらと覗く月光が照らすのは、健康的な彼女の肢体。 女性らしい丸みもふくらみも余すところ無く描きだす銀盤の光を、今ほど美しいと思ったことは無い。 劣情なんて粉微塵に吹き飛ばすくらいに綺麗で、他の何も見えないほどに見蕩れる。 こんなに暗い夜中だから――誰も見てないよね―― そんな理由で始めた水中遊泳が、もうかれこれ一刻。 くらくらするのは酒精のせいだ。 時間を忘れたのも酒精のせいだ。 陸では油の匂いに見たされている彼女の、女性としての色香。 それは俺にとっての何よりの美酒だった。 まぁ、油臭い彼女も同じくらい魅力的ではあるんだが。 つまるところ、要するに、ギャップ萌えだ。 前に前に水を蹴る白い影はぐんぐんと進み、 遠く対岸でくるっ、クイックターン。 普段は厚いブーツに包まれている白い足がイルカのように水を叩く。 その速さとは対照的に、河に立つ波紋は驚くほどに繊細。幾重にも広がって、シャイに川面を揺らす。 「俺も河童だったら良かったのかな……」 この寒さの中で彼女の横を並んで泳ぐ誰かを想像をしてみる。 誰か? それは、誰だ? あと二十五メートル。 遠く感じるその距離はしかしみるみる縮まって、俺のいる飛び込み台へとタッチ。 しかしにとりは上がってこない。 青い髪だけを水面に揺らして、ぶくぶくと何かを唱えている。 「どうした? もう一回行ってくる?」 無言。 それも、気まずい類の無言。 何かを考えているのだろうか。もしかして、さっき俺が考えていたのと同じようなことを? だとして、ならばどんな《続き》を? 不安に思うのと同時に、俺は身を乗り出していた。 にとりはそれに瞬時に気付いたのだろうか、にっかりと満面の笑みを浮かべて俺を水の中に誘い込んだ。 強く強く、愛おしい――抱きしめたい――離したくない――とばかりに。 「ざっぶーんとね」 「河童の本分……か」 「まーね。いっひっひ」 にとりは俺を見下ろして、してやったりと言った風に笑う。 浅瀬とはいえ、下着までびしょ濡れになってしまった。 「……俺が風邪引いたらどうするつもりよ?」 「そんときゃーそんとき。分かりきったことじゃないの。このあたしが、心を込めて看病してあげるよ」 「そりゃありがたいことでござんすね。ま、こうなっちまった以上は仕方ないな」 たっぷりと水を吸った服を脱ぎ捨てる。 愛を孕んだ夜の水温は思っていたより温く温かく、まるで俺を待ち受けていたかのようだった。 「それじゃ、泳ぐか」 「やたー!」 「……あ、その前に一つ。んー」 「――ん」 ついばむようなキス。 自分からこんなことをねだるのは、恐らく初めてだろう。でもこういうのも悪くないよな。 俺が済んだら今度はにとり。ねだる彼女にも愛を贈る。 交歓が終わって、にとりは今更ながらにはにかむ。その表情は、俺の不安を完全に消し去った。 好きな人と、好きな人を、再度、確認する。 水のなかで交し合う愛は、いつも以上に深く穏やかだった。 後日俺が風邪を引いて寝込んだのは言うまでもない。 しかも運悪くこじらせたとかいう、そんなオチ。 新ろだ91 ─────────────────────────────────────────────────────────── 神無月のこと――― 「―――注意点は以上。何か要望があればあとでこちらへ、可能な限り三つまで、叶えてあげるわ。それじゃあ、解散。神無月の終わりに会いましょう。」 今回の企画者にして妖怪の大賢者――八雲紫がそういうと、今回の外界旅行企画が始まった。みんな各々目的地へ向かった。 さて、俺たちも行くか、と、その前に、ある要望をしに、まずは紫のところへ行くのだった。 「こんにちは、紫。」 「お今日は。要望、かしら?」 「ああ、2つほど、いいかね?」 俺の望み、 まず。せめて九州の北の端でもかまわないからこっそりスキマで送って欲しい、ということ。 みんなは鉄道を主に利用するが、俺たちはバイクで、と思っていたが…… だがいかんせん、東京~鹿児島間は流石に遠すぎる、と言うわけだ。 紫は、関門海峡(山口側)まで送ってくれた。 九州縦断がノルマとして課せられた。 次に。愛車、ZOOMER、アーデルハイトを公道で走れるようにして欲しい、と言うこと。 と言うのも、俺が幻想入りしてきたときはZOOMERは原付一種登録。ナンバーもそのままだ。現在、こいつはエンジンをシグナスのエンジン(E3B1E型、FI仕様、なぜか工場に出回ってきてた。)しかも199ccにボアアップされたものを搭載している。(にとりと俺が仕事後の遊びで改造したんだが……まさかこんなとこで出番が来るとは……) また、俺の免許も原付一種免許。199ccZOOMERは運転できない。 これでは公道も走れないし、にとりとタンデムもできねえ。 紫は、ナンバーの境界をいじり普通二輪登録に、免許の境界をいじり普通二輪免許に換えた。おまけと言ってはなんだが材質の境界をいじってフレームの剛性まで強くしてもらった。ありがたい限りだ。 「他には?あと一つ、残ってるけど……」 「いや、それはもしも、のときのために一応とっておく。」 「それはそれは、賢明な判断ね。では、さようなら。もしものことがないよう、祈っておきますわ。」 そう言うと、伴侶とともにスキマへ消えていった。 また東京駅だろうか、それとも目的地だろうか……行方は分からないが多分東京駅だろ。旅行はむしろ目的地より旅路のほうが楽しいしな。 「さて……にとり。」 恋人――にとりに話しかける。緑色のパーカーに紺のオーバーオール、いつもの帽子。早苗さん、もとい、どこかの配管工弟を思わせる格好だ。それも、にとりが着ればすごくかわええ。ああ、もう、かわええ。 ちなみに、髪の色は外界人が見て違和感のない色になっている。紫が色の境界を弄ったのだ。にとりはきれいな黒髪。もともとのくせっ毛はそのままだがさわり心地はいいもんだ。 「本当に鹿児島――俺の故郷でいいのか?」 「うん。」 「秋葉とかでなくっていいの?」 「いいの、私には目的があるんだから。」 「結局目的ってなに?」 「まだ秘密。秘密も河童のたしなみよ?」 こんな感じで最近はぐらかされてばっかだ。 まあ、そのときが来れば分かるのだろう、いっか。 そして快適とは言えない旅が始まった。 普通二輪登録のためタンデムで高速に普通に乗れる。 エンジンも約200ccとパワフル、他の車の流れを止めるようなこともなかったし、元が50cc原付のボディのためすり抜けもスイスイ。渋滞知らずだった。 ただ、その車両が小さく、シートもノーマルのままなため、にとりとぴったりと密着する形で走り続けた。 ああ、背中にやわらかき、大きくはないがとてもやわらかい双丘が……と、景色を見る余裕があまりなかったのは内緒だ。 ―――― 観光しながら、だったため鹿児島に来るまでに三日かかってしまった。 空港を過ぎ、桜島が見えると、ああ、鹿児島に帰ってきたんだな、と実感した。 ―――― 俺の家は田舎の鹿児島の中でも島を除いて最も、と言えるほどド田舎にある。 四方を八つの山に囲まれて集落の分類的には日なた集落に分類される、陸の孤島のような場所だ。 コンビニなんかない。約10km先にはあるが。と言うかまず店がない。 いまだにワンセグは映らないし光も通ってない。 だが微妙に文明的なとこもある。ネットも繋がるしオール電化している家もちらほら。上空からは多くのソーラーパネルも数多く見える。 その雰囲気は、なんというか、ちょっと発展した幻想郷、って感じだ。 「うーん、空気がおいしい! 外界にもこんなとこあったんだね!」 「ああ、ここが、俺の故郷だ。」 そして、家に着く。昼過ぎだったため、母屋には誰も居ない。 「○○ー、ご両親居るー?」 「いや、居ないみたいだ。」 「仕事?」 「たぶんな。」 仕事場に向かうことにした。 それにしても、俺が幻想郷に行って1年。ここはちっともかわんねえな…… そうそう、こっちに、俺が幻想郷に居る、って事は両親も了解済みだ。 以前、山の妖怪の案内者としてこっちに戻ってきたとき、手紙を出しておいた。 『俺は幻想郷に住むことにした』という旨を書いて。 すると一月もしないうちに返事がきた。文が何所からともなく持って来てくれた。どういうシステムなんだろう? 『了解、体に気をつけて、たまには帰ってくること』と書かれていた。 おおらかな両親を持ってよかったと思う。 仕事場へ着く。 「うわぁ……」 「ふぇ~……」 俺とにとりはあっけにとられていた。 前言撤回。ちっとも変わってないなんて嘘だ。 俺の記憶ではただの粗放な荒地だった我が家の土地が大規模に、無秩序に農園化していた。 定年後、大量の土地と金を持て余した父と母は俺というすねかじりが居なくなったことで大農園、ともいえるほどの農地を作っていた。季節の野菜、果物、物珍しさで始めたのか、南国のフルーツまで栽培していた。下手すると幻想郷よりも取れる野菜や果物は種類も量も多いかもしれない。 その巨大ともいえる畑の中に、大柄の、少々年老いた農夫が立っていた。 こちらに気づいたのか、近づいて来た。 「はは、ただいま……」 「おめぇ!○○!!帰ってきたか!!がっはっは!彼女まで連れておい!おーい!かーさーんかーさーん!○○が―――― (あまりにも暑苦しいので省略されました。何をしたって表示されません。) side Nitori ―――――― 「おめぇ、幻想郷とかいう異世界で働くってか?すげぇな!おい!」 「ああ、ほんに。工学系の需要があって助かったってとこよ。」 「しかしおい、○○ちゃんよぉ、こげなよかおなごつれて、おいも連れて行ってくれんか?w」 「やいや、あっちは妖怪がおっでね。わなんか喰われっちまうよ。」 「んだもしたんっ、おいがそんなか弱く見えっか!?」 今、私は○○の家でご馳走になってる。……近所の人もなぜか加わって。 ○○の幼馴染たちだとか、他の村の人だとか、村長だとか。 うう、何言ってるか分からない……翻訳はあとがきに任せよう…… いつだったか「鹿児島は事あるごとに宴会を開きたがる」って○○が言ってたけど、まさにその通りだ。 メニューは……とんこつにさつま揚げ、きびなごの刺身に鶏肉の刺身、それから焼酎。 うん、どれもおいしい。 「おかわりはいかが?にとりさん?まだまだごはんはありますよ?w」 「あ、ええ、お構いなく。お料理おいしいです。あ、なにかお手伝いしましょうか!?」 「あらあら、ありがとうw いいの、座ってて、あなたはお客さんなんだから。」 ○○のお母さんが言う。 うう、申し訳ないな……他の女の人、みんな働いてるじゃん…… ……それにしても、これだけの料理、私が来て半日もしないうちに用意されたけど……すごいな…… うーん……それにしても……このままじゃ、私の計画が果たされないままなんだよな…… 「おぅい!にとりちゃん!!ちょっ、こけけ!」 「こけ……?」 鶏? 「ああ、「こっちこい」って意味だ。と言うわけで、来て。」 そのあと、いろいろ質問された。馴れ初めだとか。言葉の壁があったからかなり時間かかったけどね。 ―――― 「ふぅ……疲れたな……w」 「ああ、すまんかったな、うちの衆が。」 「いやいやw みんな愉快な人だねw」 今は騒ぎの中心から離れて○○と二人きりでいる。 そこへ…… 「お疲れ、大変そうだったねw」 ○○と同世代位の若い女の人が来た。 「隣、いい? 私、幼って言うの。○○の幼馴染。よろしくw」 「え?ああ、よ、よろしく。」 「なんだよ、冷やかしに着たのか?w」 「いんや、焼きもち焼きに来ただけ。いいなー。私もこんな彼女欲しいな~w」 そして、抱きついてきた! 「え?え?」 「あ、気をつけろ、こいつバイだから。……しかも酔ってんな。」 私から幼さんを引き剥がす。 「うぅー!○○の鬼ー悪魔ー独裁者ー。独占禁止法でかわいい子は私が所有することになってるんだぞー!」 「言ってることがめちゃくちゃだな……にとり、気にすんな。こいつはいつも訳分からん。酔ってるとなおさらだ。」 「え?ああ、うん。」 それより、○○にべたべたしすぎだよ、この人…… 幼馴染とはいえ、仲良すぎじゃない?そういうもんなの? うう…… 「訳わかんないってなにさー!馬鹿か!?私は馬鹿なのか!?」 「いやいや、馬鹿だろwいかんともしがたく。お前は無知すぎるもん。昔、俺の生まれた場所を横浜県って言ってたもん。」 「いいや!馬鹿じゃないね!!無知でもない!!その証拠に私は○○のことで知らないことは何にもない!!何にもないもんね!!にとりさんより知ってるもんね!!………っと」 「嘘付けwほら、もうふらふらしてるじゃないか……よっと。」 「私は……馬鹿じゃ……ないもん………」 寝てしまった。……○○の膝枕で。 うう、うらやましい。妬ましい。パルパルしい。 「ふう、昔っからこの調子だもんな。こいつ、酔うと寝ちまう癖があるんだよw」 「……ねえ、○○。」 「ん?」 「この…幼さんのこと、どう思う?」 私は……ちょっと○○の恋人であることに自信なくしたかもしれない。 よく考えたら、私は○○のこと、知らないことばっかりじゃないか!! それで、務まるのかな?恋人が……… それで、務まるのかな?……… もしかしたら……○○は幼さんのことがすきなんじゃ…… 「どう思う?って……好きか嫌いか?ってこと?そりゃ、好きだよ。」 やっぱり。 「……でも、」 つけたす○○。 「多分、お前の懸念している「好き」とは違うと思うぞ?」 「………え?」 「あいつを好きなのはアレだな。家族愛的なやつだ。今、恋人として好きなのはにとりだ。」 「でも……わたし、○○のこと幼さんと比べたらまだ知らないこといっぱいあるし!」 「あー……さっきのあいつの言葉気にしてるのか?」 「……うん……」 「さらに言うと気兼ねなくべたべたしてくるのに焼きもちを焼いてるんじゃないか?」 「う………うん………」 「さっきも言ったけど、こいつは家族みたいなもんだ。気にすんな。……それに、こいつはもう夫居るからな?あの騒いでる中心にいる愉快な男だ。」 「あ…そうなんだ……w」 「それから、こいつの言葉も気にすんな。知らないことはない分けないだろ?確かに、お前は俺を、過去の俺を知ってるわけじゃねえ。」 そう、そうだよ。それで恋人が務まるのか…… 「でも、それでいいんだ。」 「………え?」 「よく考えろ。俺も同じだ。俺もにとりの過去を知ってるわけじゃねえ。」 あ……ほんとだ…… 「過去は今から知っていけばいいんだよ。いいんだ、てげてげで。終わったことなんだから。」 「……てげてげ?」 聞きなれない単語だ。方言かな? 「ああ、適当とか、肩の力を抜いてとか、そんな感じのニュアンスで使う鹿児島弁だ。……いいか、よく聞けよ、」 ○○は一呼吸おいた。 「いいんだよ、全てはてげてげで。こいつは両親の受け売りだ。てげてげでいいんだよ。過ぎたるは猶及ばざるが如し、って言うだろ。今回だってそう。深く考えすぎるからいけねえんだ。肩肘突っ張るからいけないんだ。これからもてげてげでいいんだよ。肩の力抜いていけばいいんだよ。おk?」 「………うん!」 「あと……一応言っとくが……その……俺は……過去よりも……お前と一緒に居る現在と未来のほうがよっぽど好きだからな!」 よかった。過去はこれから知っていけばいいのか。 私たちは未来を作っていけばいいのか! よし!その未来を、輝かしい未来を作るためにも…… 「ところで○○、今のはプロポーズ、ってとっていいのかな?」 「え?えー……えーと……」 「わかった!結婚しよう!○○!」 「………へ?」 「だから結婚しよう!一緒に未来を作ろう!」 side ○○ ―――― そして宴は終わり、片付けもすんだ後…… ○○のご両親、俺とにとりはちゃぶ台をはさんで、向かい合ってる。 「……えーと、と言うわけで、俺たち、結婚することになりました。」 「ふつつかものですが、よろしくお願いします。」 畜生によによすんな。 ……俺とにとりは結婚することになった。 両親は快く承諾。放任主義杉じゃね? 翌日、村の小さな神社で小さな結婚式をした。 ドレスもケーキもない。ぶっちゃけ、いつもの宴会と変わらない。 でも、俺たちは結婚した。 ………急展開過ぎる気もするがな。まあ、いいや、俺は今幸せなんだ。そんな考えは野暮だね。 ―――結婚初夜。寝室、布団の上にて。 「……なあ、にとり、本当に俺でよかったのか?」 「何言ってんの。」 俺に詰め寄るにとり。 「○○だから、良かったのよ。」 「………」 「○○顔あっか~い!!ww」 「う、うるせぇ!!w」 「………○○、てげてげにがんばって行こうねw」 「早速使いこなしてるなwああ、てげてげに、な。」 そう言って、にとりにキスをする。 ああ、一緒に思い出を作っていこう。てげてげに、な。 (『そこまでよ!』に云々。) ―――― 翌日。 両親がによによしている。畜生。こっぱずかしいぜ。 ―――― 「ところで……お前の目的ってなんだったの?」 「……○○のご両親に会って「息子さんを私にください!」って言って○○とご両親いっぺんに脅かそうと思ったけど……ちょっと計画違いで○○だけになっちゃったね。」 「………最初から結婚しに来てたのか!!?」 「うん。ご両親に挨拶、が私の目的。まあ、成功でいいよね?」 「え……?まあ、いいんじゃないか?」 「てげてげでいいじゃないの。」 「………気に入ったのか、それ。」 ―――― おしまい。 ―あとがきと言う名の大蛇足。― おはこんばんちは。「にっとりにっとり」が予想以上に多すぎて構想が固まってないまま書き進めた結果がこれだよ!! 今日模試で疲弊しきった脳を休めるにはイチャスレが一番だなあ………ww 明日も模試だけど。 とりあえず、神無月ツアーが終わってしまったのに投稿しても良かったものか、と。 これがツアーはほんとに最期です。にっとりにっとりしても後は俺とにとりの出会いくらいしかありません。 今回の文章、何を書きたかったこと。 ・幼馴染に嫉妬するにとり。 俺の文章能力低すぎて全然表現できなかったけど。嫉妬されるってことはそれだけ愛される、ってことなんだよね。ああ、にとりかわええ。 ・鹿児島の気質。 豪快で大らか、そんな感じを読み取ってもらえれば幸いです。方言を出したのもそれを表現したかったから。他見の人から見るともはや別の言語らしいけど、今回は分かりやすそうなのをチョイスしてみた。 一度でもいいんで訪れてみてください。マジで田舎です。 ・「てげてげ」 てげてげ、いい言葉です。文脈で結構意味が変化する。実際は原住民くらいしか使いこなせないと思う。文中の意味は飽くまで一例。俺の人生観でもあります。俺はなすがままに生きている。うん、どうでもいいね。みんなも使ってみてください、てげてげ。アクセントは平坦に。(→→→→)。実は「てげ」と、単品で使ったりもする。単品だと地域によっては形容詞の強意の意味も含まれてくる。単品の場合、アクセントは「げ」に。(→↑)。 今回限りの人物設定。 幼:人間。幼馴染。 ○○の幼馴染。⑨。 名前は「幼」馴染から。 馴:人間。幼馴染。 ○○の幼馴染。愉快。 名前すら本文には出なかったという…… 一応名前は考えた。今。5秒で。 名前は幼「馴」染から。 おまけの日本語訳。 「おめぇ、幻想郷とかいう異世界で働くってか?すげぇな!おい!」 『お前、幻想郷とか言う世界で働くって?すごいな、そりゃ。』 「ああ、ほんに。工学系の需要があって助かったってとこよ。」 『ああ、ほんとだ。工学系の需要があって助かったよ。』 「しかしおい、○○ちゃんよぉ、こげなよかおなごつれて……おいも連れて行ってくれんか?w」 『しかしさあ、○○ちゃんよ、こんなにかわいい女の子彼女にして……俺も連れて行ってくれないか?w』 「やいや、あっちは妖怪がおっでね。わなんか喰われっちまうよ。」 『いやいや、あっちには妖怪が居るからね。お前さんなんか食われてしまうよ。』 「んだもしたんっ、おいがそんなか弱く見えっか!?」 『いやいや、俺がそんなに弱く見えるかい!?』 こんな感じ。 新ろだ93 ─────────────────────────────────────────────────────────── 俺があの娘に出会ったのはあの世界、幻想郷に迷い込んですぐの事だ。 山道を走ってる時、居眠りしてたみたいでな。車が川に落ちたんだ。何とか車から外に這い出たんだが、水のなかは真っ暗で上も下も分からなかった。もうだめだと思ったとき、急に手がひっぱられて川から引き上げてもらったんだ。 「それが例の?」 そう、そいつがにとりだ。 彼女は幻想郷の事を教えてくれたんだが、俺は混乱しててな、その時はよくわからなかったんだ。 妖怪だの河童だのと言われてもピンと来なかった。にとりだって見た目は人間の女の子とぜんぜん変わらないんだ。 まぁ、妙なレーザーやら光弾やらをばらまいて戦ってる様を見せられたら信じざるをえなかったけどね。 「それは面妖だね。怖くなかった?」 怖くはなかったよ、彼女は人間に友好的らしいし何より・・・可愛かったからな。ひょっとしたらそのときにはもう彼女に惹かれていたのかもしれない。それに、まだ本当の意味では妖怪の事が分かってなかったんだよ・・・ 「そうか。それできみはどうしたんだい?」 ああ、それから博麗神社って所につれていってもらったんだ。元の世界に帰るにはそこしかないそうだ。 だけど結界が不調だとかでしばらく俺は幻想郷にとどまる事になった。 それでしばらくは人間の里ってとこで暮らしたんだ。 にとりがたまに様子を見に来てくれてな。そのとき二人で遊んだりしたんだよ。 それからしばらくたって神社の巫女さんが結界が直ったって言いにきてな。 元の世界に帰るか幻想郷にとどまるか決めろと言われたんだ。 「それで君は帰ってきたのかい?」 いや、そのときは帰る気なんか無くなってた。にとりと離れたくなかったんだ。 そのときには彼女の存在は俺の中でとてつもなく大きなものになっていて、にとりと離れ離れになるなんて考えられなかった。 俺はすぐににとりに会いに行って自分の正直な気持ちをぶつけた、そして彼女はそれを受け入れてくれた。 俺たちは恋人同士になったんだ。 「でも君は彼女を置いてここにいる。どうしてなんだい?」 怖くなったんだ、妖怪が。 ある日、俺は傷だらけの男を見つけた。そいつは死にかけていてもう一歩も歩けそうになかった。 そこへ誰かが近づいてそいつの近くで屈んだんだ。そしてやつは、やつは・・・ 「何があったんだい?」 やつは人間を喰っていたんだ。倒れていた男の体がガクガクと痙攣してから動かなくなって一面に血が・・・ 「人が殺されたのか!?」 そうだ、あのときのことはあまり思い出したくない 俺はその場から逃げ出し、博麗神社へ逃げ込んだんだ。 その場で巫女に頼み込み外に出してもらった。 妖怪そのものが恐ろしくなったんだ。 「そうか・・・でも君は以前その幻想郷という所に帰りたいと言っているね。 それはどうしてなんだい。」 俺は逃げる時、にとりと会ったんだ。そのときは半狂乱で自分がなにを言ったのか分からなかった、でも今なら分かる。 俺はにとりに 「俺に近づくな!!このバケモノめ!!」 と叫んで石を投げつけた。にとりは信じられないものを見たように震えていた。 そんなにとりを突き飛ばして俺は逃げたんだ。 そんなつもりじゃなかったんだ。ただ怖かったんだ。 にとりにはひどい事をしてしまった。謝っても許してもらえないかもしえない。 それでも、俺は帰らないといけない、帰ってにとりに謝るんだ、そうしなくてはいけないんだっ!! 「落ち着くんだ、 落ち付けだ!?こんな所に閉じ込めていつもいつも同じ質問ばかり繰り返して!? いいかげんにしろ!!俺はお前らが力になるというからついて来たんだ!! (椅子を蹴倒す音) さぁ!!俺が知っている事は全部話した!!お前の番だ!!約束どおり幻想郷への行き方を教えろ!! 早く!!早く!! (ドアが開き数人の足音) クソッ!!放せ!!畜生っ!!畜生っ!! (数人がもみ合う音) にとりに謝らなくちゃ、謝らなきゃ・・・会いたい、会いたいよ・・・ ☆☆精神病院 58492号患者○○ 8月29日 カウンセリングの記録テー プより抜粋 58492号患者のカルテより 名前 ○○ 症状 一時的錯乱 ××山中にて発見、極度の錯乱状態が見受けられ地元の病院で治療の後、当施設へ搬送される。 自動車事故によるショックか、事故より数日間は幻覚症状および記憶の混濁が認められる 現在は幻覚などの症状は現れていないが、一時的に現実からの遊離症状が見受けられる。 日常生活に支障はないと思われるが、一時的に錯乱症状が現れる事があるため 今しばらくは隔離施設での集中治療が必要である 事件報告書 9月1日の停電時58492号患者が失踪。停電時から予備電源に切り替える数秒、つまり監視カメラが再起動する短時間で失踪したと思われる。 隔離施設の扉は内側からは開けられない構造のため協力者がいたと思われる。 だが不可解なのは失踪後どの監視カメラにも姿がまったく映っていない事、そして何よりも隔離施設のドアに開閉した痕跡がまったくない点である。そう、まるでその場で消失したような 現在隠し通路やカメラへの細工が疑われている。 新ろだ422 ───────────────────────────────────────────────────────────
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にとり1 溶け行かぬ第三者(10スレ目 606) ~溶け行かぬ第三者~ 「……」 仄暗い安息に、たった一人で沈んでいる。 並び立つ者はなく、寄り添う者もない。 安息は、彼処にはなかった。 彼らが求めた調和は、決して心地良いものではなかったから。 遠く響く囃子の音が、決して交わらない処に○○は居る。 年に一度の村祭りの日。 村人達は総出で飲めや歌えやの騒ぎを演じている。 信仰の失われた其処には、本来在るべき「神との交わり」の姿が在ろう筈もなく。 その光景の片隅にすら、自分を置いておきたくなかった。 だから今佇むのは、既に日の落ちた妖怪の山の麓―――静かに流れていく、川の辺。 「……」 星明かり月明かりだけを頼り、川面を眺めながらの耽考。 幼年から、ずっとそうだった。 気付けば周囲と全く違う行動をとり、気付けば形成された集団から大きく外れていた。 それが外界であろうが幻想郷であろうが、関係のない事だった。 求められるものは、何処でも変わらなかった。 もちろん、一切の関わりを断って生きていた筈はない。 ただ、過剰に迎合する必要がないと常々思っていただけ。 ―――淋しいと思った事がなかったと言えば、それは偽りだ。 だがそれ以外の生き方を選べない。 それが彼にとって、自分という最も本来的な生き方だったのだから。 「…………」 だから今日も、一人で佇んでいるはずだった。 「お、○○だ」 それが初めて崩れたのは、誰かが並び立つ事を許したのは。 何時の事だったのだろうか。 「……にとりか」 背後から掛けられた声に、感情そのままの音をもって応ずる。 対し、暗がりから現れた外見ほとんどが蒼一色の少女――― 谷カッパの河城にとり。この山の住人にして、○○の恋人 ―――が非難じみた声を挙げた。 「何だよ、シケたカオして」 「……たまにはね」 「せっかく会えたのにつれないなー……だいたい年中シケてるくせに」 「酷い話だ」 「あんたがね。全く……ずーっとこの調子なんだから」 呆れたような腕組みも、もう幾度見た事か。 それがあたかも、自身の一部の様に安堵感を与えていた。 ふっと息を吐き、河原に仰向けに寝転ぶ。 帽子と、甲羅ともリュックとも付かぬ物を放り出し、にとりもそれに倣った。 二人寄り添い、見上げるは満天の星々。 「……」 「……」 二人分の沈黙に、どちらからとも無くおずおずと触れ合う指先。 視界一杯に、零れそうなほどの煌き。 この光景も、もう幾度見た事か。 「……危ないよ? こんな時間こんなトコ……しかも一人」 「……お前が居るよ」 「ばか……」 ぽつりと漏らした心配気な言葉も、温かい。 まどろみのような無感覚とは異なる安息に背を預けた。 「運が良かった」 「え?」 「たまたま出てみたら逢えたなんて……さ」 「……もうちょっと気の利いた台詞欲しかったなぁ」 「ご愛嬌」 「どこがだ、朴念仁」 そんなどうと言う事もない会話が、今は何故だか心地良くて。 沈んだ心もゆっくりと溶けて行くよう。 「でも」 「うん?」 「……その、決めた逢引じゃないのに逢えたのは……感謝してもいいかな、色々」 「そうだね。感謝、だ」 そして、溶けた先にある心が示した。 自身が、にとりの接近を許した理由――― 「―――主にお前に」 「……ホント、あんたは相変わらず……」 いつの間にか、その手はしっかりと繋がれている。 確かめるように、言葉を紡いだ。 「そういうお前は相変わらず人間観察かな?」 「もちろん。どっかの朴念仁観察よりよっぽど楽しいね」 「……最低だ」 「だって今日も村でお祭りやるっていうからわざわざ下りてきたのに、―――」 その途端、嬉々として会話のペースを上げるにとり。 彼女が口にする人間観察の内容は、ほぼ決まっている。 里の子供達が遊んでいる光景。 畑仕事に精を出す男たち。 織物屋での商い。 寺子屋。 宴会。 そして、昨年の今日、行われていた村祭り。 その光景は、○○のすぐ傍に。 手の触れる位置に存在しつつも、 結局は溶け込めずに過ごしていた日常そのものだった。 「あ~あ、あんな楽しそうなのに何で混じらないのかねぇ」 「……」 それを、にとりは見つめ続けていた。 厳重に張り巡らせた光学迷彩の中から。 ○○と出会う前から。 ずっとずっと、一人で。 「……」 「あ、あれ? ○○? ねぇ?」 人間は盟友。 彼女は常々そう口にしている。 しかし現実はどうだ。 人間と妖怪は、本来的に相容れない存在。 それを、決して交わる事の叶わない場所から。 溶け合うことなく眺め続ける、永遠の第三者。 それが、河城にとりという少女と、人間達との関係の本質に他ならない――― 「ち、ちょっと!!何、泣いて……」 「……あ」 なんという哀しさ。 なんという悲しさ。 諦めている自分とは違う。 彼女は、未だ信じている。 自身は、溶け合える筈もない彼等の盟友なのだと。 それがゆえ、彼女は、 既に裏切られたも同然の信頼を育み続けているのに他ならない―――!! 「……泣いてないよ」 「いや、でも私が何か」 「違う、そもそも泣いてない」 それきり沈黙。 にとりはと言えば、自分が○○の気分を害したのかと慌てに慌てている。 「ね、ねぇ……何か、気に障る事……」 答えたい。 彼女は我が身と似ている、と強く思う。 ここまで近付く事を許せたからこそ、この感覚を閉じ込めたくはない。 胸を張れる事実は一つ。 しかしその反面、自身がここで思うことをぶち撒けてしまえば、どうなるか。 曝け出せ、と叫ぶ己の己が必ずにとりを傷付けるだろう。 自分達は非なるものながら似ている、溶け込めない者達なのだと。 そう知ってしまえば、これまで信じてきたものが無惨に砕け散る。 彼女はきっと、大きな心の柱をひとつ失ってしまう事だろう。 ―――似ていながらも、本質を異にする。 信じている君が眩しくて、壊れて欲しくなくて。 そう、強く強く思い続けている。 だからきっと、自分はこんな生き方を選ぶのだろう――― 「―――ま、ちょっと色々思い出してね……」 「……ごめんね……嫌な事つついて……」 この偽りも、もう幾度――― 上体だけを起こすと、心配そうにこちらを覗きこんでいるにとりの顔があった。 「俺こそごめんな……さ、終わり。」 ○○は片腕だけ動かし、無言で彼女の肩を抱き寄せる。 「ん……」 ただ肩を抱き寄せただけ。 それでも男にはない柔らかさを感じ取れる。 「抱き潰す」という表現が決して過剰ではない程の心地。 この感覚は確かさなのか。 それとも儚さなのか。 どちらなのだろう。 「にとり……」 「っ……○、○……ちょっと、苦しいけど……あったかい……」 いつの間にか、正面から彼女を抱きしめていた。 両腕に込めた力に、確かに伝わる命証。 にとりは○○の胸に顔を埋め、甘えねだるようにぐりぐりと動かしている。 あぁ、あの柔らかさ―――いや、この感覚全ては両価だ。 相反する価値が、性質が、同居している事の表れ。 サラサラとした髪を静かに撫でる。 にとりの表情を窺い知る事は出来ないが、きっと目を細めて幸せそうにしているのだろう。 それを、周囲全てから隔絶するように。 守り慈しむように。 いつまでも、抱き締め続けていた。 彼女に残酷な事実は見せられない。 決して気付かせる訳にはいかない。 この感覚を味わうのは、自分だけでいい。 溶け込めない苦痛を味わうのは、自分だけでいい。 溶け込めて居ない事実を知るのは、自分だけでいい――― この少女の無垢な信頼―――人間と河童は古来よりの盟友である―――を守る。 裏切られる事こそ必定であるのならば、自分が裏切らせない。 それが何かを偽る事であって。 いつかそれが彼女に知れ、断ち切られる事になろうとも。 ―――彼女を深く愛している。 ―――同時に深く愛された。 だからここまで許した。 だから彼女を守りたい。 それこそがたった一つ、溶け行かぬ第三者たる自分が胸を張れる事実――― この信頼に応えるべきは、名も知れぬ彼等ではなく。 今ここでにとりを抱きしめている、自分自身以外にない。 自分ではない誰か何かが、呼びかけた気がした。 ―――溶け込めなくても、幸福は在るんだよ。と。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ532 コンコンコン 軽い音に気がついたのは、寝ようとしながらも寝れなくて、ボーっとしていたからだ。 寝ようとしているのに寝れないときって、よくあることだ。 コンコンコン 尚も音は続く。 ……無視していてもこのまま続きそうだったので、応えることにした。 「あーーぃ、今出るから、待ってくれぃ」 寝癖が立ってないかな、とか妙なことを考えながら、ドアを開けた。 「あ――あの、」 「ん?」 眠気が溜まっている目で、視線を下げる。 背中にバッグを背負い、水色の服を着て、その服と似たような青い色をした髪をした少女が立っていた。 今現在の時間を確認、午前の二時。 これは何らかの事件に巻き込まれるフラグが立ちそうだ、が。 「で、こんな時間に俺ん所に来る理由は、なんぞや?」 見捨てずに匿うのが人情。ここで見捨てては、男ではない。 ――はぁ、俺も長生きできそうも無いなぁ。 「いぇ、お宅のきゅうり畑にあるきゅうりがあまりにも美味しそうなので、食べたくなっt」 「帰れ」 心配した俺が馬鹿だった。 こんな時間帯にきゅうりを求めてくるのは、あまりにもあまりだろう? ドアを閉めようとして――阻止された。 いきなりのドアに対するタックルによって、だ。 「……おい、きゅうり少女。何故、俺のドアにタックルするんだ」 「人の話は、最後まで聞いてください……!! それに私には『河城 にとり』という名前があります!!」 「そうか、俺の名前は〇〇だ。満足か? 満足だな。では、またいつか――来世にでも」 こんな夜中に話を最後まで聞く奴は、馬鹿な奴か優しい奴だけだろう。 残念ながら、俺は見た目通り少々馬鹿だが、そこまで馬鹿じゃないし、優しくも無い。 そして、少女の力は見た目通りか弱く、ドアを閉めてロック完了するのに五秒と掛からなかった。 「さっ……最後まで、話をっ――」 「きゅうりは、勝手に食べてもいいから。じゃあな」 それだけ言って、ベッドに潜った。 あーー、結構、長い時間話し込んでいた為に布団が冷めてるぅ……寒いよぉ。 ぐすん、ぐすん……うっ、かり、ぐすん 軽い音が気になっているのは、寝ようとしているのにこれが自分の責任のせいかと思ったら、寝ようと思っても寝れないからだ。 こんな状態で寝れる奴の図太い奴が――いるわけねぇか。 かり、ぐすん、ぐずっ――うぅぅぅ、かりっ、ぐす 尚も音は続く。 ……無視していられるわけも無く、いつの間にか布団から出ていた。 「あーーー、もぅ、目的は何だよ」 泣き止ませる為にはどうしようかと真剣に考えながら、ドアを開けた。 「――あ」 「――ほぅ、さっきから『かり』の部分が気になっていたのだが、こういう訳か」 眠気が溜まっている目で、視線を下げる。 やはり、先程の少女がドアの前で座り込みながら泣いていた――食い掛けのきゅうりを片手に持ちながら。 ちょっと呆れたが、泣いてる表情は演技ではなく、本当に泣いてるようだった。片手にきゅうりだが。 「……まぁ、いいや。外は寒いから、家入れ。家出きゅうり少女」 「だから、私の名前は、にとりだって!!」 「で、俺は事情聴取を行おうと思うのだが。カツ丼は必要か?」 「いつの間に私が犯罪者!? 私、何もやってませんよ!?」 罪のない青年の安眠を妨害、及びきゅうり窃盗罪と言うものがあるが、今回は見逃そう。 「よし、お前さんの言いたいことを聞いたら、俺は寝よう。 さぁ、早く用件を述べるんだ。三文字以内で」 「えぇ、解りまs――三文字以内?」 「三文字以内限定言語承諾機構が、俺の中で産声を上げてるんだ。しょうがないだろ」 「へ、変な機構が付いてるんですね……」 必死に言葉を考えてる少女を見ながら、俺は思った。 色々と難しい年頃だから、家出とかってしちゃったのだろうか、と。 それに機構なのに産声はおかしいだろ、という突っ込みはないのかよ。 お? 何か三文字を思い浮かんだらしい、少女が真面目な顔でこちらを見やった。 「言ってみ?」 「かっぱ!!」 「HAHAHA!! よし、俺も三文字かつアメリカンに返してやろう――KA☆E☆RE」 「なっ、なんでですかっ!?」 一瞬でも期待した俺が駄目だったようだ。 ってか、何故にかっぱよ? しょうがない、聞いてやるか。俺も気前が良いな、うん。 「で、なんで『かっぱ』なんだ?」 「えと、私こと『河城 にとり』は、実を言うとかっぱなんです!!」 「――――――――――――――――――よし、解った解った。よく解ったよ。 さて、いきなりで悪いが、今日は俺の家で寝なよ。明日、いい病院に連れて行ってあげよう」 「そんな信じてない目で見ないでください!! 最後まで、話を聞いてくださいよぉ……」 いや、ここまで話を聞いてる俺の努力も認めて欲しいものだが。 ――だが、ここで泣かれるのも困るので、話に乗ることにした。 「で、(自称)かっぱ少女よ。お前さんが、もし、かっぱだとしたら、色々と矛盾点が出てくる」 「……ふぁい?」 「一つ、かっぱの頭には皿があるということ。 二つ、かっぱの力は強大であるということ。。さっきのタックルで、俺のドアが吹き飛ぶくらいにだ。 三つ、かっぱがこんなに可愛いはずが無いということだ。 ただ、俺は妖怪についての専門家と言うわけでもないから、偏見もあるんだろうが」 「えっと、それについてでしゅが――」 そっからの話は、あまりに長いんで省略させてもらったが、要約するとこうだ。 とある人間の迎撃に向かったのだが、弾幕勝負で惨敗をした。 気絶をしてしまい、目を覚ましたときには下流にまで流されており、その折に帽子を失くしてしまったらしい。 その帽子が俺の言う『かっぱの皿』の役割を担う為のもので、それがないと力を発揮できないということだ。 だから、帽子がないと下級の妖怪にも太刀打ちできない為、元の家にも戻れず、俺に帽子捜索を頼んだ――ってところか。 しかし――何故か三つ目の質問に対する話はされなかった、ちっ。 「そうかそうか、よく解った。君は、将来、大物の小説家になれるぞ♪」 「あ――――いえ、他の人に頼みます。ごめんなさい、変なことを言ってしまって」 俺の助けは、完璧に無いと思ったようだ。 ペコ、と礼儀正しく頭を下げて、家から出て行こうとする(自称)かっぱ少女。 ドアを開けて、仕方なさそうに微笑みながら、家から去ろうとする。 その姿は……なんだか、悔しくなってくる。俺が何の役も立たない奴という思いが、胸の中でグルグルと周る。 あぁ――どうにも、俺は本当に馬鹿野郎のようだ。 「――――なぁ、にとり。一つだけ言っていいか?」 「ぐずっ、な゛んですか……?」 あー、もう涙で顔がグジャグジャだよ。 反省しよう。もうちょっとソフトに物事を言わねばな。 「お前さんが妖怪の『かっぱ』ならば、誰かにそれを頼むのは止めとけ」 「な゛んでですか?」 ……俺の話を聞くんだな。あんなに酷いことを言ったのに。無視されると思ってた。 そんな感想を胸に仕舞いながら、あまり働いてない頭で、にとりの問いに応える。 「力の無い珍しい妖怪が、人間に助けを求める? 絶対に騙されて捕まるのがオチだ。 そしたら、解剖されるか、金目のものとして売りさばかれるか、慰み者にされるかもしれねぇぞ?」 「『慰み者』? えっと、慰められるんだったら、良いことじゃないの?」 ……伝説上の『かっぱ』さんは、性知識に疎いようだ。 「あーーー、えーっと? ゴホン、まぁ、十中八九、お前さんは酷いことされるってことだ」 「人間は――優しいんじゃないの……?」 「優しい人間もいる。だけど、世の中には自分の欲求を満たそうとする人間の方が一杯いるってことさ」 「じゃあ、〇〇さんは……?」 上目遣いに俺を見上げるにとり。 そんな答えが一つしかない問いをするな馬鹿。 「残念ながら、俺も欲求を満たす人間の方だよ」 「――っ!!」 俺としたことが、また相手を誤解させるようなことを言ってしまったか。 いい加減、こう言う紛らわしい物言いを好むのは止めるべきだなぁ。 だから、なるべくソフトに 「早く帽子を見つけて、かっぱだという証拠を見せて貰いたいからな。 帽子を探すのは明日だ。良かったらでいいが、今日は家に泊まらないか?」 ポカンとするにとり。 自分の予想とは違う言葉にパニックを起こしているようだった(この時の表情が好きで、紛らわしい言い方を好むわけだが)。 俺の言葉を咀嚼して、もぐもぐごっくんしたようだ。 「えーーっと、あの、その……お邪魔でなければ」 「はいはい、俺のベッドを使いな。大丈夫、襲わないから」 ソファに横になる。 あーぁ、我ながら、馬鹿な奴だな。 ――――――――――だけど、俺が馬鹿な奴で良かったかもな。 そんな幻想を胸に、睡魔の誘惑に負けて眠り込m 「でっ、でも、嫁入り前の娘が男の人と寝るとか、えと、しかも、男の人のベッドで寝るなんて、あの」 「……」 「えっと、私も一介の妖怪ですが、まだ未婚ですし、その、そう言うことは全然やったこともないですし――」 「…………あのな」 「だっ、だけど、助けて貰った身ですし、その、私みたいなかっぱで良ければ、あの、その」 「あんまり中途半端な知識を出してないで、寝るぞぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」 俺のベッドの前で、もじもじしてるにとりがいじらしくて、ベッドに押し倒した。 そして、気付いた。 「えっ、えっと、あの――あ、の」 「あー、スマン。眠たくて、ついつい暴走してしまったんだ。あはははははは」 「寝るぞ」とか叫びながら、女性を押し倒すんじゃただの変態じゃん、とか。 しかも、襲わないと言った五秒後の話だし、とか。 『それ』を意識させないように、優しい父性の表情を取りながら、一言。 「おやすみ」 「えと、おっ、おやすみッス」 優しく布団をにとりにかぶせながら、何気ない顔でソファに寝転ぶ。 「ふぁぁあ、明日の為にも早めに寝るか」 さりげない動作により、何気ない様子を醸し出す為にあくびと共に独り言を呟いて、猫のように丸まった。 『ここから、本音↓』 (あっ、危ねぇ!! 心臓がバクバク言ってやがる――!!) ガゥッ!! バゥッ!! とか、俺の中にいるワイルドウルフが、にとりに食いつくところだった……俺自重しろ。 いや、押し倒してしまった弾みに……さりげなく胸に触れていただなんて、考えるな、考えるなよ、事故だ、事故、事故、そぅ、事故!! あれは、不可抗力によって起こったために俺は弾劾される必要は無く、にとりも意識してないようだし、大丈夫。 よし、寝るぞ……寝るんだ、寝なければならない、あれは事故だ……しかし、胸は小さめだったな。どのくらいだろ? A~Bが妥当か? って、考えるな!! 駄目だ、大丈夫。触れてない。触れてない。あれは、ジョークだ。アメリカンなジョークなんだ。 深呼吸だ、ふっ、ふっ、はぁー。ふっ、ふっ、はぁー。自重って、五回唱えるんだ。自重、自重、自重、じちょ(ry 結局、俺は一度も眠れなかった。 「…………あれ?」 ここはどこだっけ? 近くに巫女と魔女が通ったと言う情報を聞いて、迎撃のために出て行って、すぐにやられて―― 「起きたか?」 そうだ、帽子を探す為に〇〇さんの手を借りようとしたんだ。 「あぁぁ、私としたことが、客である身なのに家主さんよりも、遅く起きてしまってすみませ……あれ?」 「どうした、にとり」 「〇〇さん、目が赤いですよ?」 「知らん、気のせいだ。気にするな」 一睡もしてないような目で、そんなことを言われても気になりますよ。 見たところ、ご飯の準備をしているらしい。 「あの……」 「今日は、お前の帽子を探すために弁当にしたのだがな。 探しに行くのは、俺だけだ。にとりはお留守番」 「なっ、なんでですか?」 「お前さんは、今現在、弱ってんだろ? 知り合いの妖怪にでもばれたら、家に容易に入られて大事なものも盗まれるんじゃねぇの?」 発明品とかしかないが、開発中のスペルカードとかが盗まれたら洒落にならない。 今はまだ良いかもしれないが、あまり長居はしてられない――。 「まぁ、そう言うわけだ。一応、昼食は作っておいた。 夕食時には帰るから、その時に夕食は作る。 暇潰しの為の本とかは、本棚を参照。ドアがノックされても出るなよ。 後は、風呂とかは勝手に使ってもらっても構わん。んじゃ、行ってくる」 「えっ? ちょっと、待って――」 言い終わってから走り出すまでの時間は、コンマ一秒を切っていただろう。 すぐさま姿が見えなくなった。 「えっと、いってらっしゃーい」 一応、手を振るが、どうにも届いてるとは思えない。 手を振るのをやめ、自分の食事の準備をし始める。 おにぎりと、味噌汁と、卵焼きと、魚という日本食風の朝食。 見た目や、匂いからして、美味しそうな感覚が舌に生まれる。 卵焼きの味がやはり美味しい、と素直な感想を持ちながら考え事をしていた。 ――しかし、〇〇さんは私を一人残して、何かを盗まれる心配などしてないのだろうか? 一人暮らしなのだ、なにかと大事なものもあるだろう。 まぁ、そういう心配を私に対して抱いてないと思うのが、何よりも嬉しいのだが。 上機嫌に味噌汁を飲みながら、ふと、頭の中で何かが引っかかった。 言うなれば、魚の骨をとり忘れたために喉に骨が刺さってしまった時のような感触。 何かを忘れてる、何かを、何を――あぁ、そう言えば、 私は、一度でも彼に対して、自分の帽子の特徴を言った記憶が無い――。 「ちょっ、〇〇さーーーん!!!」 ~続く~ ───────────────────────────────────────────────────────────
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『王国特級近衛師団』の四番部隊長。別名『超妖怪弾頭』。 部隊には個性的なタイプの部隊員が多いようだ。 彼女は人でもマ人でもないと言われ、『王国特級近衛師団』ではイカ娘よりも古参の隊員である。 武曰く『会って話しても気さくで飄々とした感じ』。 ___ Vヘ -=ァ''" x==ミ_,>―――-ミ Vヘ .| / / ((>‐=ニニニニニニ\ Vヘ / || | | /--=ニ二二二_ニニニニ| f辷入 / || ./ ̄ ̄`ヽ|___彡' \ニニ| Vi i/ ̄`, / || / (__ア¨¨´ / \_厶 く ViLノ^lレヘ/i;iく .ノ〕 i个i / ℃)| |/ / / | { `、 \ | Vi i i / /i;i;i;i;/ ./ ./ |lllll|_. | ./ / l| |'"| ̄`ヽ/ ,| {l | | l |i | Vi/ // ̄〉 | |,/ ̄_,ノ | |/ 八 | ≫―≪l/| 八|⌒ト | |l | | └ヘ.イ ̄} |/ ∠斗┐ , | ヽル'゛んハ ノ ァ==≪l/ 八 | |  ̄| { -‐ つ } | 八 V'ツ んハ ィ_/ / \ ( / (lll〉 / / ', , Vシ ,ハ { { ┌┴‐- _/ , | ./ ___彡イ || ┌‐ _ / (\ \ | \ .′ | j( 八 ( | l| 八 乂 ∨ 人 |ハ \ , / ̄ ̄ ̄\_/ ', 〈 )ハ人八 /ハ(ミト  ̄ ̄_,..ィi| | ノハ )八 | { |/ ̄{ | `¨¨¨l(/ノノ八( | | / / ̄〉 /⌒匸 ===ァ'⌒マ゙ ト,_z―‐くヽ__ | | .}/ ∧____j__ 匸] | ', 乂} \ \/⌒寸冖┐ | ノ 〈 ∧__ノ} 匸] | \ヽ ´/ ,ハ ∨/ \ \ / 〉┌─────────────────────────────────────────│にとり└─────────────────────────────────────────■────■│重要語句│■────■≪表層≫【川】【流れ】【好奇心】≪深層≫【???】【???】【???】■──■│能力│■──■【補助】【防御】【-】≪河童のポロロッカ≫ 水に『逆流』の概念を付与する事によって【水の流れと逆方向に物体を押し流す】効果が発生する 概念上流れ続けていないと効果を発揮しない 【】≪≫【】 本文■──■│補正│■──■【+】≪心網≫ 見分色の覇気の一、主に聴覚に訴えかける―― ■──■│装備│■──■腕1=≪≫【】腕2=≪≫【】体=≪≫【】装飾品1=≪≫【】装飾品2=≪≫【】 能力についての追及 +... 能力について補足 出来る事/出来た事 出来なかった事/まだ出来ない事 これからしたい事 フラグ・考察等 +... [フラグ] 【見聞色の覇気】を所持している 人(亜人含む)でもマ人でもない存在らしい。現状出ている種族で言えば吸血鬼、機械、星、精霊辺りだろうか。 話術や腹芸が得意で、何か重要な質問をしても素直に返答されることは少ない。 [考察]
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にとり3 11スレ目 318 に「おーい、にんげーん!」 自「もう人間はやめてくれないか」 に「つい癖でね、あはは」 自「それがお弁当?」 に「ふっふっふ、私の愛のこもった手作り弁当を堪能しろい!」 自「これは…、きゅうり!これも…、きゅうり!」 に「じゃあこれは?」 自「きゅうり!」 に「ちゃんとスライスしてあるだろー、ちゃんと見ろー」 自「あ、あぁ…」 に「嫌い?」 自「好きだよ(キリッ」 に「じゃあ食べよう。いっただっきまーす」 しゃく… しゃくしゃく… しゃく… しゃくしゃく… しゃく… しゃく… しゃくしゃく… しゃく… しゃくしゃく… 自「ハァー…ハァー…(シャク…」 に「なにハァハァ言ってんの?さては私にヨクジョーしてるな!こいつぅ~w」 自「ハァー…ハァー…(シャクシャク…」 に「なんでブルブルしだしてんの?平気か?」 自「…あ、あぁ、!全然平気だぜ!?いやぁにとりの手作り弁当最高だぜ!」 に「そ、そうか!明日も頑張って作ってくるな!あはははは☆」 自「…」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 992 人生の盟友にならないか? ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1052 「ただいまー……あれ?」 戸を開けて家の中に入る。 もう外は暗くなってきたが、灯りがついていない。 入り口の横にあるスイッチで電灯を点ける。 ……一応言っておくが、ここは幻想郷だ。 外の世界から迷い込んで、この川縁の小屋で一人暮らしをしていた頃は、 こんな文明的な設備はなかった。 きっかけは、ある日川上から流れてきた少女を助けたことだった。 彼女―河城にとりという名の河童だと自ら名乗ったが、脚がつってうっかり流されたという時点で大いにうそ臭い。 ともかく、助けてもらった礼だと言って、にとりは我が家の文明レベルを数日かけて格段に引き上げた。 今では水力発電で動力を供給された機械たちがひしめいている。 「いいっていいって、だって友達でしょ?」 感心しつつ、あべこべに礼を言う俺に彼女はそう答えたものだ。 それから、外の世界の機械の話(半分くらいはフィクションなのだが、ちゃんと伝わったろうか?)をしたりしている内に だんだん仲良くなって、いつのまにかにとりはこの家にいついていた。 「気にしない気にしない、だって友達じゃない!」 帰らなくていいのか、と尋ねる俺に彼女はそう言ったものだ。 で、帰ってきてみるといるはずのにとりがいない。 特に出かけるという話もなかったのだが。 ついに家に帰ったのだろうか?あるのかどうかも知らないが。 (……ん?) 部屋の隅に、見慣れた水色のスカートの裾だけが見える。 あのポケットは間違いない。 問題は、それが空中に浮いていることだ。 (ははあ、これが例の……) 声には出さず、心の中で納得する。以前ちらっと話していた、光学迷彩というやつなのだろう。 どうやら俺を驚かせてやろうというつもりらしいが、服の裾だけが隠れていないのでばればれだ。 それならこっちにも考えがある。 「あー、にとりいないのか……せっかく農家の手伝いして、いいキュウリもらってきたのになー」 棒読みだが、キュウリをもらってきたのは本当だ。 持っていたざるをこれ見よがしに机に置く。 服の裾がぴくりと動いた。 「一緒に食べたかったんだけどしょうがない、一人で食べるか」 さらに大きく動く。 飛び出さないのはさすがだが、それでも実にわかりやすい。 「……やっぱり待つか」 食べるふりまでしてみようかと思っていたが、 何だか気の毒になってきたのでやめた。 だいぶ時間が過ぎた。にとりはまだ動かない。 出るタイミングを失っているらしいが、それは俺も同じだ。 実は最初から見えてた、と言ってしまえばそれでいいはずなのだが、 どうにもこちらからは言い出しづらくなっている。 なので、少し思い切って誘いをかけてみることにした。 「にとり帰ってこないな……もしかして、俺に愛想つかして出て行ったのかな……」 ―反応は、ない。 「友達だって言ってたのになあ……でも仕方ないよな、あきらめるか、寂しくなるな……」 ―やはり反応はない……かと思ったが。 「すん……ぐすっ…………ううっ……」 何もない(ように見える)空間からすすり泣く声が聞こえてくる。 しまった。やりすぎたか。 「……あー、にとり?」 「ぐずっ……ふぇ?な、何で私がここにいるって……」 「いや、実は帰ってきたときからそこにいるってわかってたんだけど……」 「………………ええっ?」 一瞬の沈黙。そして。 「―どうしてもっと早く言ってくれなかったのさーっ!?」 なんで俺が怒られるのか。そもそも最初に隠れていたのはお前の方じゃないのか。 泣かせてしまった時点でそういう突っ込みはできない。 「……ごめんなさい」 俺は素直に謝ることにした。 にとりは、涙の跡もそのままにぽりぽりとキュウリをかじっている。 もう光学迷彩スーツは着ていない。 半分ずつ食べようと思っていたキュウリだが、一本だけもらって後はにとりにやることにした。 そのかいあって、なんとか落ち着いてくれたようだ。 「ねえ、○○」 「ん?」 キュウリを食べる手を止め、にとりが声をかけてくる。 「もし私が急にいなくなったら、○○は私のことなんか忘れちゃう?」 普段あまり見ない真剣な目でこちらを見つめながら問いかけてきた。 「この間も一人の時、前に○○から聞いた『頭につけて空を飛ぶプロペラ』作って、 試しに使ってみたら制御不能で遠くまで飛ばされちゃったんだ。 何とか○○が帰るまでに戻ってこれたけど」 制御する手前まではできたんだ。実物は外の世界にもないのに ……いや、問題はそこじゃない。そんなことがあったとは。 「もし戻って来れないくらい遠くに行ったりしたら、 ○○はもう私の友達でいてくれないかな?」 さっき俺が何気なく言った一言は、思った以上ににとりを不安にさせていたらしい。 想像してみる。 ある日突然にとりがいなくなって、光学迷彩で隠れてるわけでもなくて、いつまで経っても戻ってこなかったら。 機械好きで、明るいけどちょっと引っ込み思案で、でも人懐っこいにとり。 改めて考えてみると、にとりがいない暮らしなんてもう考えられないと気付く。 「……いや、探しに出かけるよ。どこまでも探しに行く」 俺の答えに、にとりはほっとしたようだ。 だが、気付かされたことはそれだけじゃない。 「でも友達だからじゃなくて」 しっかりと目を見つめて、口を開く。 「にとりのことが好きだからだ」 ……言ってしまった。 にとりは一瞬意味が飲み込めなかったようだが、 やがて顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 「…………で、でも……私、河童だよ?人間じゃないんだよ?」 消え入りそうな声で、にとりが言う。 「正直今でも俺の中の河童のイメージとお前が結びつかないけど、 お前が人間じゃなくても関係ない」 「河童と人間は友達だから、一緒にいられるけど…… それ以上の関係になっても、一緒にいていいの? それ以上の関係になっていいの? 私なんかで本当にいいの?」 堰を切ったようにまくし立ててくる。 「いいとか、悪いとかじゃない。 にとりを愛してるんだ。 ……でも、もし迷惑なら」 ここまで言って、急に不安になってきた俺の言葉をさえぎるように、 にとりは俺の側に来た。 「……迷惑なんかじゃないよ」 ぎゅっと俺の身体に腕を回して抱きついてくる。 「私も、○○のこと好きだから。 ずっと、ずっと前から好きだから」 安心したような顔で、俺の胸に顔を埋めているにとり。 俺もその背中に手を回して抱きしめる。 やがてどちらからともなく、唇を合わせた。 ほのかなキュウリの味と、甘いにとりの味がした。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1122 がちゃがちゃと、家の鍵を弄くる音がした 白黒なら問答無用で吹っ飛ばしているだろう 合鍵を渡すよな関係の奴は居ない この世界でピッキングが出来る奴を探してみたが、誰も思い浮かばなかった 「おー、噂どおりだな」 きしんだ音を立てて開かれた我が家のドア そこから現れた緑色の帽子、水色の服 ああ、そういえばこいつがいたな、と思い出したように 「○○ーげんき?」 「にとり・・・喉の上?鼻の奥?が痛い」 布団に寝ている俺を見て元気?など、見れば解るだろうと突っ込みたいが残念ながらそんな気力も無い 「風邪を治す機械は無いのか」 「あはは、医療系は苦手でね・・・きゅうり食べる?」 ポケットから取り出された緑の棒状の野菜 程よく人肌に温まったきゅうりなど食べる気にはならない 「遠慮しとく・・・それで、何用だ?」 「盟友が風邪ひいて寝込んでるって噂を聞いてね、これは見舞いに行かないわけにはいかないでしょーと思い・・・」 「・・・ありがとな」 気持ちは嬉しい こういうときに他人の優しさはすごく、沁みる 「洗濯物とかいろいろやっとくからさ、ゆっくり寝ててよ」 「あー、ありがとう・・・お言葉に甘える」 既にまどろんだよな意識だったからか すんなりと、意識を手放し、眠りに落ちた 「よっし、やっぱり男一人暮らしは宜しくないね」 埃のたまった部屋、ろくに整理されて無い衣類 ある程度片付け終わって、一息ついた 「・・・○○」 寝室に行ってみると、熟睡していた 上下する胸、微かに聞こえる寝息、苦しそうな表情 「人間は難儀だねぇ、風邪一つでこんなに」 今一瞬、悪い考えが頭をよぎった これなら、何をしても起きないんじゃないか、と 「だ、駄目駄目!○○は病気で床に臥せっているのにそんな破廉恥な事を私は」 ○○の唇、自然と目が行ったそこは、乾いていて 「く、唇割れると痛いもんねっ!」 相当苦しい言い訳をして 彼に、覆いかぶさった 翌日 「にーとーり、風邪引いたって?」 まさか、人間の風邪が移るとはおもわなんだ 反対に○○は完全に調子を取り戻したらしく、ぴんぴんしている 「○○・・・これは絶対あんたの風邪だね」 「人に移すと治るって、本当らしいな」 ○○は笑っているが、片手にはきゅうりの入った袋、なんとも嬉しい見舞いの品か 「治してやろうか?」 「・・・え?」 「お前が俺にしたことを、お前にしてやれば治るんじゃねー?」 熱があったのは認める、確かに顔は赤かったかもしれない だが、一瞬で身体ごと、かぁっ、っと熱くなった 「あ、うぁ、うえあ」 「その反応だと、やっぱり夢じゃなかったのか」 どうやら墓穴を掘ったらしい 墓穴でもいいから、穴があったら入りたい 「○、○・・・んぅっ」 もう身体が熱る原因が風邪なのか○○なのか わたしの上手くまわらない頭では、何がなんだかわからなくなっていた ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1183 私が○○に会う事が出来たのは、それから少したってからだった からんころん、店のドアを開けると可愛らしい鐘の音が鳴った 「いらっしゃ・・・」 「やぁ○○、久方ぶりだね」 彼は相当驚いたらしい、目をヤモリのように丸くしていた 「にとり・・・何度か天狗の山まで行ったんだが」 「うん、椛に聞いたよ、ごめんね留守にしてて」 嘘、彼が来るたびに、隠れて、逃げて そのたびに椛に心配をさせてしまった 何となく、会う気になれなかったんだ 「いやぁ良かった、てっきり避けられてるのかと思ってたぜ」 やはり、彼は勘がいい 只者ではないと思っていたが、変な所で勘が働く 「そ、そんなわけ無いよ!それより、椛とはどう?」 「ん?ああ・・・うん、いい奴だよな、このあいだ菓子をやったときなんか尻尾振ってたよ」 「あはは、可愛いでしょ?耳なんかピコピコさせて」 「ああ、確かに可愛いよなぁ」 じくじくと、胸が痛んだ 彼が椛を可愛いといったのが、苦しい 自分で話しを振っておいて、しかもそんな些細な事で 嫌だな、私は 「それじゃあ・・・」 「おいおい、もうちょっとゆっくりしていけよ」 「そうしたいのは山々なんだけど・・・巫女さんにお茶に誘われてるから」 「そ、そうか・・・それなら」 「それで、こんなにお菓子を貰ってきたわけね」 「あはは、流石に多いよね」 縁側に腰掛けて、霊夢と二人、茶を飲む 今日は白黒はいないらしく、実に静かだ 「・・・それで、何か話したい事があるからきたんでしょ?」 「うぁ、さすが巫女さん、鋭いっすね」 きっと読心術でも使えるのだろう もしくは妖怪の考えなどお見通しなのかもしれない 「まだ日は浅いけどさ・・・友達でしょ?」 ぎしり、と音を立てて、停止した しこうと、肉体と、心が 「あ、う、ぁ・・・うぁぁぁ」 零れ出る涙、勝手に出てくる、止められない 「ちょ、ちょ、何で泣くのよっ!?ああもう、ほら、よしよし」 「れい、む、ごめ、ひぐ、うぇぇぇん」 霊夢は優しく、抱きしめてくれた 背中をさすってもらって、凄く安心して、また泣いてしまった 「・・・落ち着いたみたいね」 「う、うん・・・ごめん・・・ありがとう」 ひとしきり泣いて、すっきりしたらしく、だいぶ落ち着きを取り戻した にとりがいきなり泣き出した理由は・・・まぁ私のクサイ台詞に原因が無いとも言い切れない 「さて、落ち着いた所で・・・話してみてよ」 かくかく、しかじか~少女悩み相談中~ つまり、友達と○○が話しているところを見て嫌な気分になった自分が嫌 それが気まずくて○○と会えなかった 嫉妬した相手、その友達は自分が悩んでいるときに優しく相談に乗ってくれた それが余計に辛い ってことね(説明口調 「・・・私って、こんなに嫌な妖怪だったんだなぁ」 「んー、別に、それは人間だって妖怪だって、もともと、誰でも持っている感情よ」 「・・・そう、かな」 「私だって、貴方だって、魔理沙だって、その○○だって、誰かを好きになって、悩んだり、嫉妬したり、泣いちゃったり そういうモンなのよ、色恋沙汰ってのは。それにあんたは、そういう黒い感情を、ちゃんとコントロールできたし、罪悪感も持ってるでしょう」 そう、そういう感情をコントロールできなかったり、抑えるつもりが無かったり そうすると、どっかの皆が大好きなヤンデレとかになっちゃうわけでしょう 「ねぇにとり、ってとりばやく陰鬱な気分を吹き飛ばす方法を教えてあげるわ」 これが成功したら、悩みなんか忘れちゃうはずよ 「そそそ、そんなこと」 「大丈夫、私の読みがあっていれば・・・」 きゃぁきゃあと、修学旅行のように騒がしい縁側 それを少し離れた所から見ている影ひとつ その名も八雲紫、茶菓子を求めてきたのだが・・・ 「若いって・・・いいわねぇ」 何となく輪に入れなかったのであった 「たたたたのもー!」 乱暴に開けられた店のドア 鐘の音はならず、がちゃんという金属音がしただけだった 「にとり?・・・どうした」 「○○っ!貴方に決闘を申し込む!!」 「・・・は?」 にとりの言っている事が理解できず、処理落ちした いやちょっとまて、決闘と言ったか つまり・・・妖怪と戦え、と 「ふふふ、安心して、勝負の内容は・・・SUMOUよっ!」 嗚呼、少し会わない間ににとりはアホの子宜しく駄目な子になってしまっていたんだな 「・・・何か考えがあっての事か?」 「うん・・・だからこの勝負、受けて欲しい」 真剣な眼差し 目は赤くはれている、一目瞭然、ついさっきまで泣いていた奴の顔だ しかし、清々しい顔をしている 腹を括ったという感じの 「・・・解った、裏に行こうか」 何か知らんが、俺もにとりの覚悟に失礼のないように、腹を括って、全力を出そう 店の裏、ちょっと行くと広い空き地がある、まるで公園のような感じだ にとりは長靴を脱いではだしになり、レインコートも脱いだ 「・・・レインコートの下はスクール水着(旧式)だと期待してたのに」 「この勝負で勝てば、着てもいいよ」 下は普通の服だった、正直今年一番の残念賞だ 枝でがりがりと、地面に線をひき、土俵を作った 「・・・先月ぐらいの事なのに、ずっと昔のように感じるね」 「ああ、出会ったときが、こうだったな」 「負けたほうが」 「勝った方の言う事を聞く」 あの時と一緒だ だが、何となく勝てない気がする 「はっけよーい」 「「のこった!!」」 前と変わらない、何もさせない、突っ込んで吹っ飛ばして、終わり そう考えていたとき、ごごご、という地鳴りのような音に気付いた 「・・・え?」 水符「河童の幻想大瀑布」 「な――」 目の前にはドデカイ水、いや滝、いや、激流 だがそれは 「幻―」 水が偽者だとわかったときには、にとりの姿はなかった 「え?あいつ、どこに」 土俵の中にはその姿を見る事が、出来ない そのとき、俺は倒れた 何が起こったのかわからんが、いきなり倒れた 足を引っ張られたか、足払いでもされたか、そんな感じだったと思う 何もないと思っていたところから、すぅっとにとりが現れた 「なっ!?」 「えへへ、オプティカルカモフラージュ」 参った、正直河童の化学を舐めてた いまなら 河童の科学は世界一ィィィィィィ!!とでもいえる 「はぁ・・・それで・・・俺は何をすればいい?」 ○○さんは土俵に胡坐をかいて、私の言う事、を待っている 「はい、ではそのまま聞いていてください」 「・・・」 良いにとり?振られてもね、いわないと、こうかいするしかないのよ 言えばよかった後悔より、言っての後悔、さぁ言って来い! 霊夢さん・・・ありがとう、私は言うよ、言いたいから 「○○さん・・・・・・もし、良かったら・・・・・・私とお付き合いしてください!」 言ったぞ、言ったよ、言っちゃったよ ああ、なんていい気分、まだ返事も貰ってないのに、何かを終わらせた達成感 さぁ来い、今ならきっと、頑張れる だから、どっちでもいい、あなたの素直な気持ちが聞きたい 「にとり・・・俺はさ、元々天狗の友達が欲しかった。というか妖怪の友達が欲しくて思いついたのが天狗だっただけなんだけどな まぁ結果河童の友達が出来て、天狗のダチも出来て・・・正直嬉しかったよ」 彼は、こっちに来てあまり知り合いが出来なかったと言っていた、私とおなじだったのかもしれない 「それでだな・・・ええと・・・好きでもない奴のところに、しかも片道何十分もかかって、わざわざ行かないって」 「え?・・・それは、どういう」 「・・・俺も、いつの間にかお前のこと好きになってた、会えなくて寂しかったし・・・好きだにとり」 ぼそっと、恥ずかしそうに、最後に付け足された言葉、それだけで 「あ、う、あ・・・うぁ」 ぶしゅう、と音を立てて、頭から煙が出た 頭が真っ白になった 「告白すれば、悩んでた事もぜーんぶ、飛んで行くわ、結果が良くても、悪くてもね。成功したら・・・幸せすぎて全部忘れちゃうでしょうね」 あのときの、霊夢の言葉が、頭をよぎっていた 今解るのは、彼女の言葉は正しかったという事だ 「あらあら、お熱いわね」 少し遠くの空高く、紅白の巫女が、河童と人間を見守っていた 心配になってきて見れば二人は熱い抱擁を交わしているところだった 告白→おk!→にとり失神→○○が抱き抱える→にとり起きてそのまま抱擁 「よー霊夢!何してるん「シャラップ、見付かるでしょ」 現れたのは魔理沙、毎度ながら五月蝿い登場だ 「ん?うわ、アレって河城にとり?マジか・・・男がいたのかorz」 「よかったじゃ無い、友達に男が出来て」 「うあーどうせ私は独り身なんだー」 「・・・不本意ながら私もね」 「霊夢・・・お前にもそういう願望が在ったんだな」 「なかなか私につりあう男がいないのよ」 「言ってて虚しくないか?」 そんなことはない、私の心を射止められない男が悪いのだ しかし魔理沙のほうが意外・・・でもないか、恋色の魔法使いって自分で名乗ってるし 「・・・とりあえず帰ってお茶でも飲みましょうか」 「賛成だぜ」 貴女の分はない、というと魔理沙はぶーぶーと文句を言っていた にとりのほうを振った、遠目に見ても中睦まじい、羨ましい限りだ 私は心の中で、おめでとう、と祝福の言葉を送った 「・・・巫女に礼を言わなきゃなぁ」 「え・・・気付いてた?」 「当然、にとりがする行動にしちゃパワーがあると思ったからな」 「あはは・・・今度神社にお礼を言いに行かなきゃね」 「ああ、俺の分も礼を言っといてくれ」 茶菓子なら山ほどある、と なるほど確かに、だが緑茶向きではないなぁ、何て思ったりもした 「ふぁあ、やっぱり無理するもんじゃ無いなぁ」 気疲れして、大きく背伸びをした、慣れない事はするもんじゃ無い 「でもさ、無理してよかっただろ?」 「う、うんっ!」 それは、私も心のそこからそう思うのだ end ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1193 山の中はこんなにも五月蝿いのか。 木々の葉が擦れ合う音、鳥や虫の鳴き声、吹き抜ける風の音。 全てが嫌に耳についた。普段なら気にも掛けないのに。 何故そんな風になっているかというと俺は今、迷いに迷っているからだ。 出口の見えないこの山腹からどのように脱出すればいいのかをね。 2、3日前山の上に神社があるということを友人から聞いた。 そこの巫女がたいそうな別嬪さんらしい。 行くしかない。これは俺の本能が下した決断であった。 そして3、4時間前、夏の日差しが容赦なく降り注いでくる中、俺は山へ入った。 妖怪のことなんて考えもせず、一人で何の用意もせずここまで来てしまった。 ましてやここが天狗の本拠地であったり鬼が居たりなんてことはまったく思いもしなかった。 多分長い間里に妖怪が襲ってきたことも無かったから、そんなこと頭の片隅へ消えてしまっていた。 何も考えずに森の風景を見ながら山の上の神社を目指していた。 しかし、しばらくして俺はやけに嫌な予感がして振り返ってみた。 ………………! 妖怪だ。妖怪が居る。俺の目線の先には妖怪がいる。 何故そいつが妖怪かと判るかって? ふん、爪が手より長くて、舌をダラ~ンと垂らして山の中を ふらふら歩いてるのが人間な訳無いだろ? 暗い森の中だと昼間から動いてるのだろうか。 一瞬でこんなことが分かっちゃう俺、めっちゃ頭いい~! と頭の中でファンファーレを鳴らしていると 目の前の妖怪はいきなり俺のほうに向かって走り出した。 そんな風にいきなり走り出すだなんてなんて落ち着きの無い野郎だ… ってここままだと俺、死ぬじゃん!! 「やぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」 俺は兎に角走った。走りつづけた。妖怪はまだ追いかけてくる。 自分でも驚くほどの速さで不安定な足場を走りつづけた。 しかし、しばらく走るといきなり木々が無くなり川原に踊り出た。 逃げ場が無くなった。後ろを振り向くと既に妖怪が俺に近づき始めていた。 俺はもうだめなのかもしれない。くそぉ、、、遣り残した事だらけだぜ。 地霊殿まだやってないし、緋想天もやってないし、風神録でEX行ってないし。 諦めかけたその瞬間、 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!!」 懐かしいフレーズが聞こえた。 その瞬間目の前の妖怪が倒れた。 「キューカンバードロップキック!!」 “空中元彌チョップ”なみにかっこ悪い名前が聞こえた。 すると妖怪が叫び声を上げたかと思うと、走って森の中へと逃げていった。 どうやら俺は助かったようだ。アイアムラッキーボーイ。 「ハァ…ハァ…何だかよくわからんが助かったぜ…」 その代わり、 「ひ、ひどい!今の盟友の勇士をその二つの目に刻み付けなかったのかい!?」 誰も居ないところから声がした。 あれ?俺、頭おかしくなっちゃったのかな…? 「返事ぐらいしてくれてもいいんじゃないかなぁ?一応君のこと助けたんだよ?ねぇ?」 やばい。本格的におかしくなってきた。 永遠亭のお医者様なら助けてくれるかもしれない。 帰ったらすぐ行こう。 「…はぁ。あんまり人前に出るのは苦手なんだけどねぇ…」 と声がした瞬間、目の前に何かが現れた。 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!また妖怪だぁっ!!!!!!!!!」 いきなり眼前に水色の髪の毛に緑の帽子、 雨合羽みたいな服にリュックサックを背負った奴が出てきた。 妖怪だ。こんな変な奴は里にいない。 恐怖で足が竦んだ。 「っ!?う、うるさいなっ、なんで大声でいきなり叫ぶのさっ!?」 と、その妖怪は俺に劣らぬ大声で叫んだ。 俺は恐怖とその勢いに押され眼前の妖怪を見ているだけで精一杯だった。 声も出ない。山の中で助けを呼んでも誰も来てくれそうに無いが。 もうだめなのか…と思いながら眼前の妖怪を定まらない視線で眺めていた。 あれ?女の子? こいつ女の子だ。 さっきの妖怪みたいな怪奇さがまるで無い。 普通に居そうな女の子。愛らしい瞳がこっちを見ている。 でもこいつ、どこから現れたんだ? 「…?どうしたの?ねぇ?黙りこくっちゃってさ。人間さんよぉ?」 ふと気付くといつの間にかにとりは川原の大きな岩の上に座り込んでいた。 「あ、ごめん。少し驚いてたんだ…。き、君は?」 無意識の内に俺はにとりの方へ歩み寄っていた。 「私は山河童のにとり。河城にとりさ。あんたこそ誰なんだい?こんな山奥に人間一人来るなんてさ」 「あぁ…。俺は〇〇。山の上の神社に行こうとしてたんだ」 「妖怪とかけっこしながらかい?」 おい。んなわけないだろ。 しかし、 「いや、途中で襲われちゃってさ。君が居なかったら死んでたよ。ありがとう」 「どういたしまして。…いや~、照れるね。あんまり人間と話すのは得意じゃないんだ」 このにとりという河童は、 「すごく気になったことがあるんだけど、いいかな?」 「なんだい?〇〇」 可愛い、 「さっきはどうやっていきなり俺の目の前に現れたんだ?」 「アレはねぇ…じゃじゃ~ん!光学迷彩すぅーつ!!」 半端無い可愛さだ。 「…?それは?」 「ふふ、これはね…」 それからしばらくの間、俺はにとりの河童の化学に説明を聞いていた。 それ以外にも河童と人間の関係だとかこの山についてのことも話してくれた。 にとりも人間の化学に興味があるようで俺にしきりにそのことについて聞いてきた。 話してるうちに俺はにとりが人間に友好的な妖怪なのだと確信した。 瞳を輝かせ、前のめりになって話を聞き入る様子を見ているとこっちまで楽しい気分になってきた。 時間も忘れて二人で話し合っていた。 しかし、熱中しすぎたお陰で気付いた頃にはもう日が傾いていた。 「やばい…今から帰ったら森の中で夜になっちまいそうだな…」 「む…うっかりしてたよ。すまない。私が気付くべきだったね」 にとりは腕を組み、少し考えたかと思うとすぐに何かを思いついたようだ。 「そうだ。確か〇〇は山の上の神社に行こうとしてたんだろ? その辺の天狗に訳を話して連れてって貰いなよ」 「え!?む、無理だって!!」 天狗に連れてって貰うだなんて、そんなことしたら 俺の幼女のように綺麗で繊細な心は恐怖で壊れてしまうじゃないか。 しかし、それ以外に方法はなさそうだ。 どうしたものか。 「にとりが一緒に神社までついて来てくれるっていうのはど、どうかなぁ~?な~んて」 「ええぇ!?あんな遠くまでかい!?やだよぉ」 ズッギュゥーーーン!!!! 俺は打たれた。胸のど真ん中を。 困った顔をするな。そんな困った顔をするんじゃない。 卑怯だぜ…可愛すぎる…(にや 「ん?いきなりにやにやするのは少し気持ちが悪いなぁ、〇〇」 「へ?あ、ああ、いや、これは、その、ち、違うんだ、ええと、、」 「…?」 あまりに狼狽しすぎたのか、にとりが不安がって俺を見上げる。 あ、その顔いいね。っておい! こんな不謹慎なことばっかり考えるんじゃないマイマインド! 安全に一夜を過ごす方法を考えるんだ! 「…そういえばにとりは何処に住んでるの?」 「ええと、それはどういう意味かな?まさか…」 ふふ、そのまさかさ。俺の超絶的(超絶望的)思考は瞬間にしていい方法を考え出した。 そう、にとりの塒で一緒に寝てやろうと思ったのだ。 ふふ、可愛かったら妖怪でも一緒に寝てやろうとする俺の根性にひれ伏すがいい! にとりの問いに俺が不敵な笑みを浮かべると彼女は俺の考えを理解したようだ。 「…〇〇、一応私はこれでも妖怪なんだよ?判ってる?」 「ああ、でもにとりは人を襲うような奴じゃないってさっき話してて感じたんだ」 「…。それはどうも。人間にそんなことを言われるとなんだか嬉しいね」 にとりは笑った。 しかし、表情は即座に険しくなった。 「だからって山に入ってきた人間をホイホイと自分の住処に入れるほど妖怪は懐が広くないよ」 静かで、強く、どこか悲しげな声。 俺は何も言えなかった。 「まあ、私の塒は狭いしね。どっちにしても二人は無理だよw」 「………じゃあ、俺はちょっと天狗を探してこようかな」 険しい表情から一転、またやさしい笑顔になったにとりに俺は出来るだけ明るく答えた。 「その必要は無いかも…」 空を見上げたにとりが呟いた。 俺も同じように空を見上げようとしたその瞬間、 「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン!!」 ドォォォォン。 ものすごい勢いで何かが空から降ってきた。 そしてこけた。川原なのに砂煙が立ち昇るほどで激しくぶつかってやがる。 死んでる? 「ごほっ、ごほっ、死んでなんかいませんYO!」 砂煙の中から黒髪の少女が現れた。 「どうも、烏天狗の射命丸文です」 「はぁ…どうも」 我ながら間抜けな返事をしてしまった。 なんだこいつは。にとりは少々呆れている。 「噂は聞きました。神社に行く途中に河童に襲われたそうで。お怪我はありませんか?」 「へ?!おいおい!私は〇〇を襲ってなんかいないよ!」 「あれ?噂は間違いでしたかな。これは椛を後で折檻しなきゃいけませんね…」 これ以上めんどくさい展開はごめんなので今までの経緯を 俺の超絶的な話術で幻想郷最速の説明をした。 まったく意味がわからないといわれたのでゆっくり二度目の説明をすることにした。 物分りが悪いぜ。天狗のお嬢さん。これで理解してくれたかな? 「…まったく話の順番が整ってません。よくにとりさんは理解できましたねw 〇〇さんには国語の力というものがまったくありませんよwww」 馬鹿なのは俺のほうだったようだ。 にとりが今度は懇切丁寧に説明してくれたのでどうにかなった。 恥ずかしい。可愛い女の子の前で恥をかくのは嫌なものだ。 「ふ~ん、そうですか。じゃあ〇〇さん、今から神社に行きましょう」 取材は神社の方で聞くことにします」 「へ?」 振り向いた時にはもう俺の体は宙に浮いていた。 「おい!!速い!速すぎるってぇぇぇぇぇっぇぇぇえ!!!!」 にとりに別れを告げることも出来ずに俺はつかの間の空の旅へと出発した。 「…〇〇と帰りにまた会えるかな?」 見送り付きで。 ・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ 烏天狗に誘拐された後神社で俺は一泊させて貰うことになった。 次の日には魔除けのお守りまで持たされた。実にいい巫女さんだった。 また今度来よう。 そう、いつしか俺は巫女さんに会うことよりにとりに再び会うことばかり考えていた。 俺はにとりに会うため急いで山を降りた。 だいぶ歩いた。太陽の位置がかなり移動している。 しかし、早くにとりに会いたいはずなのになんでこんなに歩くペースが落ちてるんだ? 最悪だ。眩暈がする。苦しい。こんなに気分が悪いのは初めてだ。 何でなんだろうか?朝はこんな調子じゃなかったのに。 俺はすぅっと自分の意識が薄らいでいくのが分かった。 畜生…もうダメだ… 刹那に俺は倒れた。頭に強い衝撃が走ったかと思うと意識を失った。 ・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ ふと目を開けると見慣れない岩肌の天井が現れた。 「…俺はどうなったんだ…」 「助かったんだよ、〇〇」 聞いたことのある声が耳に入ってきた。 「に、にとり!っ…!」 肩口に激痛が走る。 「あんまり大声を出さないほうがいいよ。体はまだ休まりきってないんだから」 「……俺はなんでここにいるんだ…?」 「…嫌な予感がしてね、森のほうへ行ってみたら〇〇が倒れてたのさ。びっくりしたよ。 多分ツツガ蟲にやられたんだろうね。変な熱が出てたし、頭からも血が出てたよ。 ほっとけないから私の塒に寝かして治療してたんだ」 「そうなのか…ありがとう、にとり。俺、にとりがいなかったら死んでたよ」 へへっと舌を出して恥ずかしそうに笑うにとり。 その姿を見ていたら何故か俺まで顔が綻んでいた。 不思議ともう体の痛みは感じなかった。 「もう日は暮れちゃったよ。今日もこの山で一泊しなきゃいけなくなっちゃたね」 「ふふっ、にとりの塒で過ごせるなら本望さ」 「………おかしな人間だねぇ……」 「どうしてだよ、可愛い女の子と一緒にいられるだけで俺は幸せなんだよ」 「…むぅ……」 何でさっきからあんまりにとりは機嫌が良くないんだ? 昨日はあんなに嬉しそうだったのに… 「〇〇、私は河童だよ」 「そんなの判ってるぜ」 「判ってない…判ってないよ…!」 不意ににとりの語調が厳しくなる。 「妖怪は所詮妖怪。人間は所詮人間。 住む世界が違うまったく違う生き物なんだよ…」 最後の方が聞き取れなかった。 にとりは泣いていた。 「本当は私だって〇〇ともっと一緒に…話がしたい…」 「じゃあ、すればいいだろう?」 俺は体の痛みも気にせず、にとりの傍へ向かう。 にとりは泣いていた。それはもうひどい有様であった。 「おい、可愛い顔が台無しだぞ」 「……〇〇はどうしてそんなことが言えるんだ…? 恥ずかしくないのか?それに私は妖怪なんだぞ…」 「…にとりに…俺はにとりに一目惚れした。理由はそれだけだ」 「……!」 にとりの目が見開く。 畳み掛けるように俺は言葉を紡ぐ。 「にとり!人間とか妖怪とかそんなんじゃねぇんだよ、好きになったんだ。 だからもっと一緒にいたい。話がしたい!!」 「……うっ…うわぁぁぁん!!」 「お、おいっ!?ど、どうした?何で泣く!?」 にとりは大声を上げて泣き始めた。 「うぅ…わ、わたしも〇〇のこと最初に見たときからなんか気になったの…。 で、でも私は妖怪だからって諦めてたんだよぉ…」 「大丈夫だ。俺は諦めてない」 何を言ってるのか自分でも分からなかった。いう言葉が見当たらない。 いうことないからちんちんとも言ってられない、一世一代の大勝負なのだから 一所懸命に言葉を探した。出でこんぞ。出てこない… …!! 「う、うわぁ!?いきなり、な、何をするっ!?」 俺は無言で後ろ向きににとりを抱きしめたのだ。 言うことが見つからなきゃ体で示したってことさ。 やっぱり俺、頭いい。 「にとり、もう離さんぞ」 「…私はトンでもない人間を好きになっちゃったみたいだね」 「当たり前だ。こんなイケメン、この山にはいねーぞ」 「……」 「冗談だよ」 にとりを抱きしめたまま俺は話し続けた。 このまま夜が明けてしまいそうな気さえした。 「にとり、好きだぜ…」 「ありがとぅ…」 それから他愛の無い話をした。 昨日と同じような話。ふたりについての話。 幸せだった。後悔無しだ。 ん?後悔? …む!! この体勢、俺は生かしきれていないっ!! そうだ、俺は今後ろからにとりを抱きしめている。 ということは誤魔化しながら少しずつおっ〇いを触れるんじゃなかろーか? これに気付いて実行せぬのは一生の後悔になる。 こういうときはLet s TRY!!すべきだ。ってけーねが言ってた。 「そうかぁ…〇〇もきゅうりが好きなのか」 「いや、にとりほどじゃないけどねw」 後少し…! 「里には緑色のビールは無いのか…」 「それビールじゃいないだろ…」 触れるぞ!後少しだぜ、軍曹! 「……!?……ね、ねぇ〇〇?」 「ん?」 「手が…さっきから怪しいよ…?」 「…!!……な、何のことだよ!?マ、マイハニーっ!?」 なっ!?ば、ばれた!? 申し訳ありません、軍曹! 不肖〇〇、妖怪の山にて散ってしまいそうです… 「さ、触ってみる…?」 ん? 俺はやっぱり耳がおかしいのであろう。 「〇〇、き、聞いてるのか?本当に、さ、触ってもいいんだょ…」 最後になるに連れてか細くなってゆくにとりの声に俺の理性は吹っ飛んだ。 抑えられん。ここで抑えたら男、いや漢じゃない!! 「うぉぉぉっぷ…!!!」 初めての感触に俺の理性はぐるぐる巻きになってどっかに飛んでいった。 「が、が…我慢ならんっ!!」 「ん?うわぁ!?」 (ここからの続きを読むには俺が風神録でケロちゃんに会えたらね!) ───────────────────────────────────────────────────────────
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~溶け行かぬ第三者~ 「……」 仄暗い安息に、たった一人で沈んでいる。 並び立つ者はなく、寄り添う者もない。 安息は、彼処にはなかった。 彼らが求めた調和は、決して心地良いものではなかったから。 遠く響く囃子の音が、決して交わらない処に○○は居る。 年に一度の村祭りの日。 村人達は総出で飲めや歌えやの騒ぎを演じている。 信仰の失われた其処には、本来在るべき「神との交わり」の姿が在ろう筈もなく。 その光景の片隅にすら、自分を置いておきたくなかった。 だから今佇むのは、既に日の落ちた妖怪の山の麓―――静かに流れていく、川の辺。 「……」 星明かり月明かりだけを頼り、川面を眺めながらの耽考。 幼年から、ずっとそうだった。 気付けば周囲と全く違う行動をとり、気付けば形成された集団から大きく外れていた。 それが外界であろうが幻想郷であろうが、関係のない事だった。 求められるものは、何処でも変わらなかった。 もちろん、一切の関わりを断って生きていた筈はない。 ただ、過剰に迎合する必要がないと常々思っていただけ。 ―――淋しいと思った事がなかったと言えば、それは偽りだ。 だがそれ以外の生き方を選べない。 それが彼にとって、自分という最も本来的な生き方だったのだから。 「…………」 だから今日も、一人で佇んでいるはずだった。 「お、○○だ」 それが初めて崩れたのは、誰かが並び立つ事を許したのは。 何時の事だったのだろうか。 「……にとりか」 背後から掛けられた声に、感情そのままの音をもって応ずる。 対し、暗がりから現れた外見ほとんどが蒼一色の少女――― 谷カッパの河城にとり。この山の住人にして、○○の恋人 ―――が非難じみた声を挙げた。 「何だよ、シケたカオして」 「……たまにはね」 「せっかく会えたのにつれないなー……だいたい年中シケてるくせに」 「酷い話だ」 「あんたがね。全く……ずーっとこの調子なんだから」 呆れたような腕組みも、もう幾度見た事か。 それがあたかも、自身の一部の様に安堵感を与えていた。 ふっと息を吐き、河原に仰向けに寝転ぶ。 帽子と、甲羅ともリュックとも付かぬ物を放り出し、にとりもそれに倣った。 二人寄り添い、見上げるは満天の星々。 「……」 「……」 二人分の沈黙に、どちらからとも無くおずおずと触れ合う指先。 視界一杯に、零れそうなほどの煌き。 この光景も、もう幾度見た事か。 「……危ないよ? こんな時間こんなトコ……しかも一人」 「……お前が居るよ」 「ばか……」 ぽつりと漏らした心配気な言葉も、温かい。 まどろみのような無感覚とは異なる安息に背を預けた。 「運が良かった」 「え?」 「たまたま出てみたら逢えたなんて……さ」 「……もうちょっと気の利いた台詞欲しかったなぁ」 「ご愛嬌」 「どこがだ、朴念仁」 そんなどうと言う事もない会話が、今は何故だか心地良くて。 沈んだ心もゆっくりと溶けて行くよう。 「でも」 「うん?」 「……その、決めた逢引じゃないのに逢えたのは……感謝してもいいかな、色々」 「そうだね。感謝、だ」 そして、溶けた先にある心が示した。 自身が、にとりの接近を許した理由――― 「―――主にお前に」 「……ホント、あんたは相変わらず……」 いつの間にか、その手はしっかりと繋がれている。 確かめるように、言葉を紡いだ。 「そういうお前は相変わらず人間観察かな?」 「もちろん。どっかの朴念仁観察よりよっぽど楽しいね」 「……最低だ」 「だって今日も村でお祭りやるっていうからわざわざ下りてきたのに、―――」 その途端、嬉々として会話のペースを上げるにとり。 彼女が口にする人間観察の内容は、ほぼ決まっている。 里の子供達が遊んでいる光景。 畑仕事に精を出す男たち。 織物屋での商い。 寺子屋。 宴会。 そして、昨年の今日、行われていた村祭り。 その光景は、○○のすぐ傍に。 手の触れる位置に存在しつつも、 結局は溶け込めずに過ごしていた日常そのものだった。 「あ~あ、あんな楽しそうなのに何で混じらないのかねぇ」 「……」 それを、にとりは見つめ続けていた。 厳重に張り巡らせた光学迷彩の中から。 ○○と出会う前から。 ずっとずっと、一人で。 「……」 「あ、あれ? ○○? ねぇ?」 人間は盟友。 彼女は常々そう口にしている。 しかし現実はどうだ。 人間と妖怪は、本来的に相容れない存在。 それを、決して交わる事の叶わない場所から。 溶け合うことなく眺め続ける、永遠の第三者。 それが、河城にとりという少女と、人間達との関係の本質に他ならない――― 「ち、ちょっと!!何、泣いて……」 「……あ」 なんという哀しさ。 なんという悲しさ。 諦めている自分とは違う。 彼女は、未だ信じている。 自身は、溶け合える筈もない彼等の盟友なのだと。 それがゆえ、彼女は、 既に裏切られたも同然の信頼を育み続けているのに他ならない―――!! 「……泣いてないよ」 「いや、でも私が何か」 「違う、そもそも泣いてない」 それきり沈黙。 にとりはと言えば、自分が○○の気分を害したのかと慌てに慌てている。 「ね、ねぇ……何か、気に障る事……」 答えたい。 彼女は我が身と似ている、と強く思う。 ここまで近付く事を許せたからこそ、この感覚を閉じ込めたくはない。 胸を張れる事実は一つ。 しかしその反面、自身がここで思うことをぶち撒けてしまえば、どうなるか。 曝け出せ、と叫ぶ己の己が必ずにとりを傷付けるだろう。 自分達は非なるものながら似ている、溶け込めない者達なのだと。 そう知ってしまえば、これまで信じてきたものが無惨に砕け散る。 彼女はきっと、大きな心の柱をひとつ失ってしまう事だろう。 ―――似ていながらも、本質を異にする。 信じている君が眩しくて、壊れて欲しくなくて。 そう、強く強く思い続けている。 だからきっと、自分はこんな生き方を選ぶのだろう――― 「―――ま、ちょっと色々思い出してね……」 「……ごめんね……嫌な事つついて……」 この偽りも、もう幾度――― 上体だけを起こすと、心配そうにこちらを覗きこんでいるにとりの顔があった。 「俺こそごめんな……さ、終わり。」 ○○は片腕だけ動かし、無言で彼女の肩を抱き寄せる。 「ん……」 ただ肩を抱き寄せただけ。 それでも男にはない柔らかさを感じ取れる。 「抱き潰す」という表現が決して過剰ではない程の心地。 この感覚は確かさなのか。 それとも儚さなのか。 どちらなのだろう。 「にとり……」 「っ……○、○……ちょっと、苦しいけど……あったかい……」 いつの間にか、正面から彼女を抱きしめていた。 両腕に込めた力に、確かに伝わる命証。 にとりは○○の胸に顔を埋め、甘えねだるようにぐりぐりと動かしている。 あぁ、あの柔らかさ―――いや、この感覚全ては両価だ。 相反する価値が、性質が、同居している事の表れ。 サラサラとした髪を静かに撫でる。 にとりの表情を窺い知る事は出来ないが、きっと目を細めて幸せそうにしているのだろう。 それを、周囲全てから隔絶するように。 守り慈しむように。 いつまでも、抱き締め続けていた。 彼女に残酷な事実は見せられない。 決して気付かせる訳にはいかない。 この感覚を味わうのは、自分だけでいい。 溶け込めない苦痛を味わうのは、自分だけでいい。 溶け込めて居ない事実を知るのは、自分だけでいい――― この少女の無垢な信頼―――人間と河童は古来よりの盟友である―――を守る。 裏切られる事こそ必定であるのならば、自分が裏切らせない。 それが何かを偽る事であって。 いつかそれが彼女に知れ、断ち切られる事になろうとも。 ―――彼女を深く愛している。 ―――同時に深く愛された。 だからここまで許した。 だから彼女を守りたい。 それこそがたった一つ、溶け行かぬ第三者たる自分が胸を張れる事実――― この信頼に応えるべきは、名も知れぬ彼等ではなく。 今ここでにとりを抱きしめている、自分自身以外にない。 自分ではない誰か何かが、呼びかけた気がした。 ―――溶け込めなくても、幸福は在るんだよ。と。 10スレ目 606 ─────────────────────────────────────────────────────────── コンコンコン 軽い音に気がついたのは、寝ようとしながらも寝れなくて、ボーっとしていたからだ。 寝ようとしているのに寝れないときって、よくあることだ。 コンコンコン 尚も音は続く。 ……無視していてもこのまま続きそうだったので、応えることにした。 「あーーぃ、今出るから、待ってくれぃ」 寝癖が立ってないかな、とか妙なことを考えながら、ドアを開けた。 「あ――あの、」 「ん?」 眠気が溜まっている目で、視線を下げる。 背中にバッグを背負い、水色の服を着て、その服と似たような青い色をした髪をした少女が立っていた。 今現在の時間を確認、午前の二時。 これは何らかの事件に巻き込まれるフラグが立ちそうだ、が。 「で、こんな時間に俺ん所に来る理由は、なんぞや?」 見捨てずに匿うのが人情。ここで見捨てては、男ではない。 ――はぁ、俺も長生きできそうも無いなぁ。 「いぇ、お宅のきゅうり畑にあるきゅうりがあまりにも美味しそうなので、食べたくなっt」 「帰れ」 心配した俺が馬鹿だった。 こんな時間帯にきゅうりを求めてくるのは、あまりにもあまりだろう? ドアを閉めようとして――阻止された。 いきなりのドアに対するタックルによって、だ。 「……おい、きゅうり少女。何故、俺のドアにタックルするんだ」 「人の話は、最後まで聞いてください……!! それに私には『河城 にとり』という名前があります!!」 「そうか、俺の名前は〇〇だ。満足か? 満足だな。では、またいつか――来世にでも」 こんな夜中に話を最後まで聞く奴は、馬鹿な奴か優しい奴だけだろう。 残念ながら、俺は見た目通り少々馬鹿だが、そこまで馬鹿じゃないし、優しくも無い。 そして、少女の力は見た目通りか弱く、ドアを閉めてロック完了するのに五秒と掛からなかった。 「さっ……最後まで、話をっ――」 「きゅうりは、勝手に食べてもいいから。じゃあな」 それだけ言って、ベッドに潜った。 あーー、結構、長い時間話し込んでいた為に布団が冷めてるぅ……寒いよぉ。 ぐすん、ぐすん……うっ、かり、ぐすん 軽い音が気になっているのは、寝ようとしているのにこれが自分の責任のせいかと思ったら、寝ようと思っても寝れないからだ。 こんな状態で寝れる奴の図太い奴が――いるわけねぇか。 かり、ぐすん、ぐずっ――うぅぅぅ、かりっ、ぐす 尚も音は続く。 ……無視していられるわけも無く、いつの間にか布団から出ていた。 「あーーー、もぅ、目的は何だよ」 泣き止ませる為にはどうしようかと真剣に考えながら、ドアを開けた。 「――あ」 「――ほぅ、さっきから『かり』の部分が気になっていたのだが、こういう訳か」 眠気が溜まっている目で、視線を下げる。 やはり、先程の少女がドアの前で座り込みながら泣いていた――食い掛けのきゅうりを片手に持ちながら。 ちょっと呆れたが、泣いてる表情は演技ではなく、本当に泣いてるようだった。片手にきゅうりだが。 「……まぁ、いいや。外は寒いから、家入れ。家出きゅうり少女」 「だから、私の名前は、にとりだって!!」 「で、俺は事情聴取を行おうと思うのだが。カツ丼は必要か?」 「いつの間に私が犯罪者!? 私、何もやってませんよ!?」 罪のない青年の安眠を妨害、及びきゅうり窃盗罪と言うものがあるが、今回は見逃そう。 「よし、お前さんの言いたいことを聞いたら、俺は寝よう。 さぁ、早く用件を述べるんだ。三文字以内で」 「えぇ、解りまs――三文字以内?」 「三文字以内限定言語承諾機構が、俺の中で産声を上げてるんだ。しょうがないだろ」 「へ、変な機構が付いてるんですね……」 必死に言葉を考えてる少女を見ながら、俺は思った。 色々と難しい年頃だから、家出とかってしちゃったのだろうか、と。 それに機構なのに産声はおかしいだろ、という突っ込みはないのかよ。 お? 何か三文字を思い浮かんだらしい、少女が真面目な顔でこちらを見やった。 「言ってみ?」 「かっぱ!!」 「HAHAHA!! よし、俺も三文字かつアメリカンに返してやろう――KA☆E☆RE」 「なっ、なんでですかっ!?」 一瞬でも期待した俺が駄目だったようだ。 ってか、何故にかっぱよ? しょうがない、聞いてやるか。俺も気前が良いな、うん。 「で、なんで『かっぱ』なんだ?」 「えと、私こと『河城 にとり』は、実を言うとかっぱなんです!!」 「――――――――――――――――――よし、解った解った。よく解ったよ。 さて、いきなりで悪いが、今日は俺の家で寝なよ。明日、いい病院に連れて行ってあげよう」 「そんな信じてない目で見ないでください!! 最後まで、話を聞いてくださいよぉ……」 いや、ここまで話を聞いてる俺の努力も認めて欲しいものだが。 ――だが、ここで泣かれるのも困るので、話に乗ることにした。 「で、(自称)かっぱ少女よ。お前さんが、もし、かっぱだとしたら、色々と矛盾点が出てくる」 「……ふぁい?」 「一つ、かっぱの頭には皿があるということ。 二つ、かっぱの力は強大であるということ。。さっきのタックルで、俺のドアが吹き飛ぶくらいにだ。 三つ、かっぱがこんなに可愛いはずが無いということだ。 ただ、俺は妖怪についての専門家と言うわけでもないから、偏見もあるんだろうが」 「えっと、それについてでしゅが――」 そっからの話は、あまりに長いんで省略させてもらったが、要約するとこうだ。 とある人間の迎撃に向かったのだが、弾幕勝負で惨敗をした。 気絶をしてしまい、目を覚ましたときには下流にまで流されており、その折に帽子を失くしてしまったらしい。 その帽子が俺の言う『かっぱの皿』の役割を担う為のもので、それがないと力を発揮できないということだ。 だから、帽子がないと下級の妖怪にも太刀打ちできない為、元の家にも戻れず、俺に帽子捜索を頼んだ――ってところか。 しかし――何故か三つ目の質問に対する話はされなかった、ちっ。 「そうかそうか、よく解った。君は、将来、大物の小説家になれるぞ♪」 「あ――――いえ、他の人に頼みます。ごめんなさい、変なことを言ってしまって」 俺の助けは、完璧に無いと思ったようだ。 ペコ、と礼儀正しく頭を下げて、家から出て行こうとする(自称)かっぱ少女。 ドアを開けて、仕方なさそうに微笑みながら、家から去ろうとする。 その姿は……なんだか、悔しくなってくる。俺が何の役も立たない奴という思いが、胸の中でグルグルと周る。 あぁ――どうにも、俺は本当に馬鹿野郎のようだ。 「――――なぁ、にとり。一つだけ言っていいか?」 「ぐずっ、な゛んですか……?」 あー、もう涙で顔がグジャグジャだよ。 反省しよう。もうちょっとソフトに物事を言わねばな。 「お前さんが妖怪の『かっぱ』ならば、誰かにそれを頼むのは止めとけ」 「な゛んでですか?」 ……俺の話を聞くんだな。あんなに酷いことを言ったのに。無視されると思ってた。 そんな感想を胸に仕舞いながら、あまり働いてない頭で、にとりの問いに応える。 「力の無い珍しい妖怪が、人間に助けを求める? 絶対に騙されて捕まるのがオチだ。 そしたら、解剖されるか、金目のものとして売りさばかれるか、慰み者にされるかもしれねぇぞ?」 「『慰み者』? えっと、慰められるんだったら、良いことじゃないの?」 ……伝説上の『かっぱ』さんは、性知識に疎いようだ。 「あーーー、えーっと? ゴホン、まぁ、十中八九、お前さんは酷いことされるってことだ」 「人間は――優しいんじゃないの……?」 「優しい人間もいる。だけど、世の中には自分の欲求を満たそうとする人間の方が一杯いるってことさ」 「じゃあ、〇〇さんは……?」 上目遣いに俺を見上げるにとり。 そんな答えが一つしかない問いをするな馬鹿。 「残念ながら、俺も欲求を満たす人間の方だよ」 「――っ!!」 俺としたことが、また相手を誤解させるようなことを言ってしまったか。 いい加減、こう言う紛らわしい物言いを好むのは止めるべきだなぁ。 だから、なるべくソフトに 「早く帽子を見つけて、かっぱだという証拠を見せて貰いたいからな。 帽子を探すのは明日だ。良かったらでいいが、今日は家に泊まらないか?」 ポカンとするにとり。 自分の予想とは違う言葉にパニックを起こしているようだった(この時の表情が好きで、紛らわしい言い方を好むわけだが)。 俺の言葉を咀嚼して、もぐもぐごっくんしたようだ。 「えーーっと、あの、その……お邪魔でなければ」 「はいはい、俺のベッドを使いな。大丈夫、襲わないから」 ソファに横になる。 あーぁ、我ながら、馬鹿な奴だな。 ――――――――――だけど、俺が馬鹿な奴で良かったかもな。 そんな幻想を胸に、睡魔の誘惑に負けて眠り込m 「でっ、でも、嫁入り前の娘が男の人と寝るとか、えと、しかも、男の人のベッドで寝るなんて、あの」 「……」 「えっと、私も一介の妖怪ですが、まだ未婚ですし、その、そう言うことは全然やったこともないですし――」 「…………あのな」 「だっ、だけど、助けて貰った身ですし、その、私みたいなかっぱで良ければ、あの、その」 「あんまり中途半端な知識を出してないで、寝るぞぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」 俺のベッドの前で、もじもじしてるにとりがいじらしくて、ベッドに押し倒した。 そして、気付いた。 「えっ、えっと、あの――あ、の」 「あー、スマン。眠たくて、ついつい暴走してしまったんだ。あはははははは」 「寝るぞ」とか叫びながら、女性を押し倒すんじゃただの変態じゃん、とか。 しかも、襲わないと言った五秒後の話だし、とか。 『それ』を意識させないように、優しい父性の表情を取りながら、一言。 「おやすみ」 「えと、おっ、おやすみッス」 優しく布団をにとりにかぶせながら、何気ない顔でソファに寝転ぶ。 「ふぁぁあ、明日の為にも早めに寝るか」 さりげない動作により、何気ない様子を醸し出す為にあくびと共に独り言を呟いて、猫のように丸まった。 『ここから、本音↓』 (あっ、危ねぇ!! 心臓がバクバク言ってやがる――!!) ガゥッ!! バゥッ!! とか、俺の中にいるワイルドウルフが、にとりに食いつくところだった……俺自重しろ。 いや、押し倒してしまった弾みに……さりげなく胸に触れていただなんて、考えるな、考えるなよ、事故だ、事故、事故、そぅ、事故!! あれは、不可抗力によって起こったために俺は弾劾される必要は無く、にとりも意識してないようだし、大丈夫。 よし、寝るぞ……寝るんだ、寝なければならない、あれは事故だ……しかし、胸は小さめだったな。どのくらいだろ? A~Bが妥当か? って、考えるな!! 駄目だ、大丈夫。触れてない。触れてない。あれは、ジョークだ。アメリカンなジョークなんだ。 深呼吸だ、ふっ、ふっ、はぁー。ふっ、ふっ、はぁー。自重って、五回唱えるんだ。自重、自重、自重、じちょ(ry 結局、俺は一度も眠れなかった。 「…………あれ?」 ここはどこだっけ? 近くに巫女と魔女が通ったと言う情報を聞いて、迎撃のために出て行って、すぐにやられて―― 「起きたか?」 そうだ、帽子を探す為に〇〇さんの手を借りようとしたんだ。 「あぁぁ、私としたことが、客である身なのに家主さんよりも、遅く起きてしまってすみませ……あれ?」 「どうした、にとり」 「〇〇さん、目が赤いですよ?」 「知らん、気のせいだ。気にするな」 一睡もしてないような目で、そんなことを言われても気になりますよ。 見たところ、ご飯の準備をしているらしい。 「あの……」 「今日は、お前の帽子を探すために弁当にしたのだがな。 探しに行くのは、俺だけだ。にとりはお留守番」 「なっ、なんでですか?」 「お前さんは、今現在、弱ってんだろ? 知り合いの妖怪にでもばれたら、家に容易に入られて大事なものも盗まれるんじゃねぇの?」 発明品とかしかないが、開発中のスペルカードとかが盗まれたら洒落にならない。 今はまだ良いかもしれないが、あまり長居はしてられない――。 「まぁ、そう言うわけだ。一応、昼食は作っておいた。 夕食時には帰るから、その時に夕食は作る。 暇潰しの為の本とかは、本棚を参照。ドアがノックされても出るなよ。 後は、風呂とかは勝手に使ってもらっても構わん。んじゃ、行ってくる」 「えっ? ちょっと、待って――」 言い終わってから走り出すまでの時間は、コンマ一秒を切っていただろう。 すぐさま姿が見えなくなった。 「えっと、いってらっしゃーい」 一応、手を振るが、どうにも届いてるとは思えない。 手を振るのをやめ、自分の食事の準備をし始める。 おにぎりと、味噌汁と、卵焼きと、魚という日本食風の朝食。 見た目や、匂いからして、美味しそうな感覚が舌に生まれる。 卵焼きの味がやはり美味しい、と素直な感想を持ちながら考え事をしていた。 ――しかし、〇〇さんは私を一人残して、何かを盗まれる心配などしてないのだろうか? 一人暮らしなのだ、なにかと大事なものもあるだろう。 まぁ、そういう心配を私に対して抱いてないと思うのが、何よりも嬉しいのだが。 上機嫌に味噌汁を飲みながら、ふと、頭の中で何かが引っかかった。 言うなれば、魚の骨をとり忘れたために喉に骨が刺さってしまった時のような感触。 何かを忘れてる、何かを、何を――あぁ、そう言えば、 私は、一度でも彼に対して、自分の帽子の特徴を言った記憶が無い――。 「ちょっ、〇〇さーーーん!!!」 ~続く~ うpろだ532 ─────────────────────────────────────────────────────────── 家から出ようと思ったものの、既に姿も見えない彼にそのことを伝えに行っても、 どうせ戻ってきた彼と鉢合わせになるだけだ。 一瞬だけ、戻ってこなかったらどうしようと思ったのだが、 「そ、そこまでは馬鹿じゃないよ、ね?」 そもそも、帽子の形を聞かずに飛び出して行く程の人間だ。 ――ありえるかも、なぁ。 だが、幸いなことに近くにある川なんて一つしかない。 そこで探してくれれば、私の服と同じ色の帽子ということで見つかるかもしれない。 「ごちそうさまッス」 食べかけの朝食を全て食べ終えて、家を見回してみたのだが、 あるのは観葉植物や、本棚、ベッドなどの最低限度の家具。 「電化製品の類が無い……」 何か機械を分解して時間を潰そうと思っていたのに、第一候補が潰れてしまった。 「……そう言えば、本棚がなんとかって」 やや大きめの本棚に近づいてタイトルを確認すると、 『⑨とは一体なんなのか?』、『てゐの誰でも分かる心理学』、『阿求の楽しく学べる現代知識』、 『ヤゴコロ先生の正しい使い方』、『文々。新聞の徹底解明』……etc 「うわぁ――」 どれもこれも、分厚くてあまり読む気がしない。 四つ目なんて、辞典ほどの大きさであり、そこまで大きい理由も解らない。 まぁ、しかし、だ。 数時間の間を何もせずに過ごすと言うのも嫌なので、とある本を手に取り――気付いた。 「……?」 後ろの方に何冊も、漫画本のような本がギッシリ詰まっていることに。 大きな本を表に出して、なんだか後ろの本を隠しているかのように、だ。 「なんで、漫画本を後ろに置くんだろ?」 そんなことをしたら、読み辛いんじゃないのだろうか? と、適当な一冊を手にとってみた。 『風邪気味うどんげと、おっきな座薬』 「…………えと?」 絵柄と名前からして、怪しい香りをプンプンさせている。 ようやく、後ろに置いている理由を理解し、私が見ちゃいけないものであることも解った。 ――――だが、今現在の状況を振り返ってみよう。 (精神的に)年頃の女性が、誰もいない部屋で、こういう本を発見してしまったのだ。 やることなど、一つしかあるまい―――― 「えと、えと、ごめんね……〇〇さん」 目を閉じながらも、一枚目を開いてみた。 ゆっくりと、目を開き――何も言わずに本を閉じた。 「ちょっ、これは……うぅ」 顔が赤くなっていくのを感じながら、閉じた本を開き、また閉じる。 段々と、閉じてから開くまでの間がなくなって行き―― そんな事をしながら、本を読むのを一向に止められなかった。 ――読んだ本が山のようになってきた時に気付いた。 「うわっ、もうこんな時間っ!?」 腕時計で見てみたら、六時前だった――が、〇〇さんが帰ってくる様子は無い。 「本当は何を探してるか忘れてるんだけど、とにかく何かを見つけるために張り切ってるとか」 ……ありえる。 もぅ、こんな時に何も出来ない自分が、一番もどかしい――!! いや、その事は置いといて。 「読んだ本を片付けないと」 本棚の後ろにある本を勝手に読んでいたなんてバレたら、洒落にならない。 何をされるだろうか? この本に書かれていたことを、実際にやらされたり――なんて、ね。 「……うぅ」 違うんだ、〇〇さんは男性だから、ああ言うものを買わざるをえなかったんだ。 あんなことを私にしたりなんかするはずがない。 そうに違いない、そうに違いないんだ。 だって男の子だもん。 そして、本を片付け終わって、七時ちょうど。 「お昼ごはん、どうしよう」 サランラップに包まれたチャーハンと、きゅうり。 今食べてしまったら〇〇さんが作る夕食を食べられなくなり、 食べなければ、作ってくれた人に失礼である。 選択肢は二つ。 「……」 帰ってくる前に食べるしかないと意気込み、すっかり冷えたチャーハンにスプーンを 「ただいま」 「ひゃっ!? お、おかへりなさい!!」 ドアを開けて、笑顔の〇〇さんが立っていた。 鍵は閉めておいたが、合鍵で開けたのか――って、その手に持っているのは!? 「私の帽子!? 見つかったんですか!!」 「まぁな、ちょっとした天狗の知り合いに手伝ってもらっt……」 帽子を取ろうとした手が、空を切った。 〇〇さんが、帽子を上にあげたのだ。 「……あの、〇〇、さん?」 「いや、どういうわけか、にとりを苛めたくなったのでな」 「じょ、冗談はやめてくださいよ。お願いします、帽子を返してください!!」 「ならば、何故俺が帽子を返したくなくなったか、考えてみそ」 どう言う経緯で苛めたくなったのか? ――考え付くものでもないので、交渉材料を得ることにした。 「……天狗の知り合い、とは誰ですか?」 「犬走 椛って言う、いかにも犬っぽい天狗。見た目的にも性格的にも。 お前さんと知り合いってことで、帽子の形を教えてもらうとか、千里眼の能力とかで探してもらったりで、助けてもらった」 納得した。彼女の能力を持ってすれば、私の帽子を探すことなど簡単だろう。 だが、それの他にキーポイントなどと思いつくものもなく、ひたすら答えを考えて―― 「無論、エロがっぱ少女が一日中、勝手にエロ本を読んでいるなんて情報も、な。 お好みは『八意 永琳とドキドキ♪保健室』だったとかも、詳細になぁ?」 「………えと、あの、ですね? あはは、それが今の行動の理由ですか……」 今気付いたが、〇〇さんの笑顔はさきほどから、ずっとそのままだ。 笑顔とは顔の形がそうであるというだけで、目だけが修羅のように禍々しく光っているのだが――!! そのまま、〇〇さんは話を続ける。 「お前が『射命丸 文とイケナイ事情徴集』を読み始めた時には生きた心地がしなかったのデスが?」 「そ、そっか。ごめんなさい……」 ――と、頭の中で閃くものがあった。 「ふ、ふふふふ、〇〇さん。貴方は一つだけ、間違いを犯しました」 「? はて、何をしたんだ? 何か特別なことをした記憶もないが」 自信満々に微笑むにとり。 うわ、何を言おうとしているか、解るのがいやだ――!! 「〇〇さんは、昨日の夜、何をしようとしたんですか?」 「……なんのことだ?」 「ベ、ベッドの上に私を押し倒したときです!!」 「はっ、はは、ははは」 やっぱり気付いてるよねぇ、忘れてたらいいと思ったのだが。 しかし、にとりも恥ずかしいらしく、顔を真っ赤に染めている。 俺のエロ本読んでなかったら、こんな事にはならなかったのにな。いや、後悔しても遅いが。 「えっと、だな? 俺のしようとしたことは、」 「はい、なんでしょうか?」 「ウデタテフセ、だ。たまにベッドに手を付いてやりたくなる、からな。 いつもの癖で手を突いたら、にとりがいただk」 「あの時、私のむ……む、胸に触れてたのに!?」 や、止めろ、それ以上言うな!! 帽子を探すことで、その事を忘れようとしていたと言うのに……。 それに、にとりよ。俯くほど恥ずかしいんだったら、話題として出すなよ。 「あー、…………なんだ? 俺もイヤらしくて、にとりもイヤらしかった。 それで、チャラにしないか?」 「……了解ッス」 埒が明かないと、あちらも思ったのだろう。結局は、そう言う形で落ち着いた。 「だったら、ほれ」 「……あ」 ポスと、にとりの頭に帽子を載せる。 見た目的な変化が現れるとかはないが、これはこれで納得。 「まぁ、今日は夜遅いし、泊まってけ。 チャーハンは明日、俺の昼食にするから、そのままにしといてくれ」 「あの、〇〇さん!」 あ゛ぁー、帽子を探し疲れたぁ。 今日は爆睡できそう――って、今、呼ばれたか? 「? にとり、呼んだか?」 「なんで、帽子を私に返したの?」 言ってる意味が、よく解らないのですが。 帽子を探して欲しくて俺に頼んで、帽子を渡して困られる。 俺の理解力では、理解できん。 「だから、えと、返さなきゃなんでも、できるんだよ?」 「……お前さんは、あの漫画に書かれていたようなことをされたいのか? して欲しければ、いつでもベッドの中でお待ちしてるぞ。よし、ご飯の準備準備」 心配(?)してくれるのは嬉しいが、相手が嫌がることはしたくないと言うのが、俺の固定論だ。 まぁ、そんなことを言っても意味ないし、パッパとご飯を食べて、風呂入って、寝よう。 と、出てきた料理は親子丼と味噌汁だった。 「いただきます」 「まぁ、簡単なものですまないがな」 はは、と苦笑をする〇〇さん。 いや、私の帽子を探して東奔西走してきたのだから、料理は私の役目だと思ったのだが、何故か全力で断られた。 ……女性的な能力が欠けていると思われているのだろう、かなりショックである。 かっぱであると言う偏見が、ここまで影響を及ぼすなんて――差別です!! 「この親子丼美味しいッスねぇ!!」 「絶対に別のこと考えてたろ!? 俺の飯を食ってる時の表情と、食べ終わったときの表情が違うぞ!!」 ゴホン、顔に出ていたようです。 前にも、表情が出やすいから気をつけろと言われたばかりなのに……修行が必要なようッス。 「だけど、〇〇さん。よく天狗様とコンタクト取れましたね」 「? そんなに意外だったか?」 それはそうだ。天狗様と知り合うどころか頼みごとを聞いてもらえた人間なんて、見たこともない。 実は、〇〇さんは人として身分が高い人間? 「だったら、こんな辺境の地に住んでませんよねぇ。〇〇さんって、なんですか?」 「なんですか、とはご挨拶だな。まぁ、謎は謎だから面白いんだぜ? 俺の正体なんていいじゃないか、ほら食え食え」 やはり人間も妖怪も、変わりなく隠し事は持っているようだ。 しかし、椛さんと繋がりがあると言ってたのならば、射命丸さんとも繋がりがあるのかなぁ。 考えども考えども、答えが出るはずもない――謎が深まるばかりだ。 「おい、にとり。空の容器に箸を突っ込んでも何も出てこないぞ。おかわり持って来てやるから、容器かせ」 「あっ、あぁ、考え事してました。すみません」 昼ごはんを食べて無いせいでお腹が減っていたのも確かなので、おかわりをお願いする。 「ほぃ、おかわりだ」 「ありがとうございます」 うぅ、遠慮するのが普通だと思うのだが、お腹が減っていては戦争も出来ないのです。 お昼ご飯抜きがこんなに堪えるだなんて――初めて知りました。 ――はっ! まさか、お腹が減った天狗様に料理をご馳走したのでは!? いや、天狗様がどんなにお腹が減っていても人間の食べ物を食べるなんてことはしないだろう。 「おっ、おい!! 親子丼の中に味噌汁入れたら――!! ぶなしめじ入れてんだぞ、馬鹿ー!!」 では、実は少し前まで天狗様のところで家事手伝いをしていたとか? ……だったら、それ以前に家事手伝いをさせてもらえるまでの経緯が考えることすら出来ない。 「ダメだっ!! それ以上は、マヅい!! か、かき混ぜるなーー!! アーーーッ!!」 んー、無理矢理な案だけど、〇〇さん自体が特殊な妖怪で、天狗様との繋がりがあった、とか。 それ自体、〇〇さんの見た目や言動から解る通り、人間そのものである。そんなことはありえない。 「た……食べるなよ? 違うの準備してやるから、お願いだから、あっ、ダメ、ダメだ!! 馬鹿ーーーー!!!」 だったら、〇〇さんと天狗様の繋がりって、なんだろう? 「はぁ、……はぁ、ダメだったか――」 俺には、にとりを止められなかった。 あれ、絶対にマヅいだろ、常考。 「どうしたんですか、〇〇さん? そんなに疲れた表情をして」 ケロッ、となんでもないように首を傾げている。 ……あっ、そうですか。俺と味覚が違うのか、はい、了解しました。 「あー、なんだ? ご飯を食べたんだし、先にお風呂入ってきてよ」 「はい、じゃあ借りますよ」 ご馳走様、と言ってお風呂場に走っていった。 んー、俺の正体、言うべきかなぁ。 いや、言わずに知らないまま、にとりを帰らせるのが正解だろう。 あ゛ぁー、眠い。お風呂入ったら、用事済ませて寝ようか。 (えっと? そこから、お風呂から上がったにとりをベッドで寝させて、〇〇が風呂に入り終わった。 そんな流れを書いてたら、エロくなったから、割愛。二つの意味で、すまん!!) 着替え終わって、まだ頭の湯をタオルで拭きながら、脱衣所から出る。 ふと、にとりを遠目に確認。 「寝てる、か」 幸せそうな顔で、抱き枕を抱いている。 色々と違う経験をしたせいで疲れてたんだろうな。 「あぁ……待たせちゃ、マズい、か」 静かにドアを開けて、外に出る。 家の天井の気配を探り――やっぱ、来てるか。 いや、椛に会って来たんだ、あいつが来ないはずがないか。 「はぁ、跳ぶの久しぶりなんだよなぁ……」 手に持っていたタオルを首に巻き、ふぅ、と深呼吸。 ぐっ、と屈伸するように足を屈めて、 7m近くある天井まで、一気に跳び上がった。 「っと、と。着地がいまいち不安定だな、今度から気をつけようか」 「相変わらずドジですねぇ、貴方は。久しぶりですね、〇〇」 あー、やっぱり来てたか。考えてた通りだ。 「二年くらい会ってなかったなぁ。久しぶり、射命丸」 そう、射命丸 文が屋根に立っていた。 「しっかし、こんな寂れた家になんのようだ? 別段、来る理由も無いだろ?」 「いえいえ、椛へご挨拶に来たというので、私が行かないわけにはいかないでしょう?」 ふふ、と微笑む射命丸。 うん、それはそれで微笑ましい気もするけどさ、 「なんで右手が扇を力強く握り締めてるのさ? ぶっとい血管が浮き出てるぜ?」 「椛から、にとりさんが読んでいた本の内容を聞きましたので。言いたいことは解りますよね?」 「あぁぁぁあ、ちゃんと口封じてきたのになぁ……!!」 扇を大上段に構えて、すぐさま俺を殺す準備に掛かる。 「はは、止めろよ? 俺、死にたくないよ? 殺したら、呪っちゃうかもよ!?」 「ふふ、面白い事を言うんですね、〇〇。呪いをかけるのは、殺される前にしか出来ませんよ?」 ヤバイです、危険です、死にそうです。 「下に、にとりいるしさ? 今日死んだら、天狗様とやらの栄光に傷がつくんじゃね?」 「……、醒めました。殺すのは後日にしましょう」 物凄くだるそうな顔をして、扇を降ろした。 ――聞きました、奥さん? 殺すのは先延ばしだそうですよ? どちらにしろ殺されるじゃん。 「だけど、貴方の読んでいた本を回収して、発売元を言ってもらいますからね?」 「いや、回収するのは構わんが、発売元を言うのはちょっと……困る」 なんたって、俺の家だなんて言えるわけ無いよなー。 椛とかにバレないように隠れた場所に地下を作って作業室にしてるだなんて、絶対に言えないよな。死にたくないし。 「……まぁ、いいですか。何処かから情報を取り入れれば、探りを入れて潰しますから。 その代わりに、さきほどの話に出てきた、にとりさんの件ですが」 「あ、あぁ、なんだ?」 うわぁ、俺の家が跡形もなく潰されそうです。俺の人生、終わりそうです。 「あの娘は、人間を信用しすぎてます。人間がどういうものか、教えてくださいませんか?」 「あー俺じゃなくても良いだろ? お前がやればいいじゃないか」 いきなり、そっちの話題かよぉ……。 射命丸が言いたいことは解る。 しかし、だからと言って、それを認めていいわけじゃない。 「昔、人間に翼をもがれた天狗の言う言葉なら、あの娘も信用するしかないでしょう?」 「……だな」 十年以上前の話だ。 人間を信用してついて行ったら、投網で雁字搦めにされて翼を鉈で――――。 「天狗が人間にやられるなんて、本当に馬鹿な話だよな」 「そうですね。しかし、その後に人間を殺さずに逃げた、と言うのが一番の恥さらしですよ、貴方は」 「だな。俺もそう思う」 人間を信じていたら痛い目に逢う、と言う内容を伝えるに際し俺以上の適役はいないだろう。 「だからと言って、新人の天狗を連れてきて俺にその内容を語らせる、ってのはなんだ!? 二年前も、そのために来たんだろ!!」 「いやぁ、退職金貰ってここに家建ててるんですから、いいじゃないですか」 俺は、沖縄県とかにいる語り部か、馬鹿野郎。 いつも新人天狗が俺に眼付けしてくるから、本当にやり辛いよ。 「……多分、ショック受けるだろうからなぁ。言いたくねぇなぁ」 「そうですね。しかし、ショックは小さい方が良いですよ。 今回は貴方の家だから良かったものの、他の人間の家だったら……寒気がします」 こいつは本当に人間嫌いだなぁ。 「だけどよ、最近は人間と話をしてるらしいじゃないか? 博霊 霊夢さんだっけ? それと、聞いた話では男との繋がりも懸念されて――」 「噂です!! そんなことはありません!!」 ぷぃ、と顔を背ける射命丸。うわぁ、聞いた話は本当だったのか。 しっかし、このお転婆娘と恋人関係になった人間って、本当に凄いな。 ――いや、もしや、猫を被ってるのか? 「いつから私の話題になったんですか!? それで、了解しましたね!!」 「あ゛ー、はいはい、解った解った。話はそれだけか?」 「……私が書かれているらしい本を明日にでも、持ってきてください」 ちっ、覚えてたか。 「では、これで」 「おぅ」 そう言って、飛び立つ射命丸。 ……白、か。 と、いきなりこちらに振り返り、 「今、邪な考えをしませんでした?」 「いやいや、むしろ純粋な考えをしていただけだ。気にすることではない」 疑わしげな顔を向けてきたが、次の瞬間、目に見えない速さで去っていった。 「……はぁ、帰ったか」 今日は、寝るかぁ。 いい加減、今日は走りに走って、疲れてるからな。既に目がショボショボしてきた。 と、頭の中で考えながら、地面に降り立つ。 ドアを開けて中に入り、 大きめの集音機を耳に付けたにとりが、こちらを見ていた。 ――うわぁ、最悪です。目の前が真っ白になってきました。 「天狗、様?」 「そうだよ。『様』は余計だが、な」 今じゃ飛ぶことも出来ない、出来損ないの天狗だから。 「あっ、えと、ごめんなさい!! 私としたことが、天狗様だと知らずに数々の悪逆を……えと、その」 「天狗様禁止。俺は出来損ないだし、〇〇さん、っていつも通り呼んでくれ」 俺がこんなのだと知ったら、あんまり尊敬とかしないと思ったのだが、計算違いだったようだ。 「はい、〇〇様。にとりは、貴方に対して何をしたらいいでしょうk」 「だぁぁぁぁっぁああああ!!! 体が痒くてしょうがない! よし、命令だ!! 俺を〇〇と呼び捨てにするんだ!!」 こんなことになるなんて、思いも寄らなかったぞ……。 「あ、ぁあ、ま、〇……えと、ま、ま――」 「〇ー〇ー、だと言ってるだろう!? あー、解った。〇〇さんでいいから、せめて今まで通りにしてくれ。俺がやり難い」 と、茶の準備をするためにキッチンに向かった。 茶と菓子を準備して、にとりと話すことにしたわけだが。 「まぁ、それで話すことはいっぱいあるわけだが」 「はい」 うわぁ、前までと様子が違いますよ。固まってますよ。 「俺は過去に天狗だったわけだが。 まぁ、お前さんが聞いたとおりに鉈で翼を切られたわけですよ。 で、今現在、その翼が――――」 今では、とある神社の神に対する捧げモノとして、納められてる。 「で、では、〇〇……さ、んは、何故、人間を殺さなかったのですか?」 「あー……それは、な?」 仕事をサボってまで会っていた友人。 裏切られたからといって、俺にとってはあいつは親友だった。 「気まぐれ、さ」 翼が斬られて俺の仕事が出来ないということで、退職しここに家を建てた。 そして、その友人のところに行った俺が見たモノは、 『ごめん』と書かれた一枚の紙と、宙に浮いていた一人の人間。 「大丈夫、ですか?」 「ん? 大丈夫大丈夫。眠くてクラクラするんだ。 それよりも、射命丸が言ってた通り、人間は危険だからあまり近づくなよ?」 ……そんな事するくらいなら、天狗の翼を手に入れて喜んでる姿を見た方が、いくぶんかマシだった。 今、俺はあいつのことを恨んでいる。この手でバラバラにしてやりたいほど、恨んでいる。 俺の翼を斬ったからと言って、その自責の念で死ぬなよ……!! 一言、謝ってくれれば、俺は許してやれたのに。 「……まぁ、だけど人間は一種類だけじゃないからな。 お前さんが本気で信じられる人間が出来たら、距離を考えながらも関係を持つのも良いんだとは思う」 「? 〇〇さん、言ってることが目茶苦茶ですよ?」 ぁ、俺、なんで変なこと言ってんだろう。 「あのだな、にとり。最後に言った言葉は忘れてくれ」 「あ、えと、解り、ました」 理解したらしく、頷くにとり。 それで良い、人間と関係を持って痛い目を見られるよりは良い。 「じゃあ、これで終わり。寝るぞ」 言うが早く、ソファに寝転がった。 一日の疲れが激しかったのか、考える間もなく、眠りに付いた。 「……ぉ」 久しぶりの香りを嗅いだ気がする。 寝ている時に感じる朝餉の匂いと、自分の作っている時の匂いはまったく違うものだ。 ――そこまで感じて、全てを理解した。 「にぃぃぃぃぃとぉぉぉぉぉぉぉりぃぃぃぃぃぃl!!!!!」 止めろ、俺はお前の作ったものは食べれな――あれ? 「おはようございます、〇〇さん」 「ん? あ、あぁ、おはよう。にとり、それは?」 綺麗に作られた朝食。昨日の夕食時の行動が嘘のようだ。 「やっぱり、私が料理できないと思ってたんですね」 そう言って、おたまを俺に向ける。 美味しそうである、実に美味しそうである。 「ほらほら、作り終えたら持って行きますから、待ってて待ってて」 と、押しやられた。 意外も意外。こいつ、料理出来たんだ……。 「……」 「……」 「……あぁ、解ったよ!! 美味いよ、美味しいですよ!!」 「ふふ、料理スキルは、女性には必須なんですよ? 〇〇さん」 くそぅ、勝ち誇られた……。 だけどしょうがないじゃないか、美味しいんだもん。 「今日、午前の内の私の家に帰ろうと思います」 「そっか」 魚の焼き加減に感動しながら、応える。 ……しかし、絶対に負けただなんて言わない。いや、ただの負け惜しみだが。 「そして、家の状況にもよりますが、二日くらいしたら、ここに戻ってこようと思います」 「そっか――――ぁ、ん? 今、なんて言った」 魚とご飯のコラボレーションを口で感じていたせいで、聞き逃した。 だけど、かなり俺にとっては不都合きわまりない内容だった気がする。 「お邪魔でなければ、また、ここに来ます」 「……何故に?」 別段、ここに来る理由があるわけでもないだろうに。 「いえ、人間のことを少々、聞きたいな。と思ったので」 「話すことは、全て話したが?」 「本当に、ですか?」 ……こいつ、いらないことも理解しやがった。 「――もう、めんどくさいなぁ」 「スミマセン。ですが、私は人間について理解が足りないので、教えて欲しいんです」 うわぁ、完璧に俺を頼ってますよ、この娘。 「……」 「……」 「……はいはい、解ったよ!!いつでもいいから、来いよ!!」 「ふふ、では、いつかまたお邪魔させていただきます」 射命丸に謝らないとなぁ、困った困った。 とか考えつつ、ご飯をのりで巻いてパクリ。ん、美味い。 「それでは、お邪魔になりました」 「はいはい、お世話様でした」 とか言いつつ、別れる事になったわけだが、 「きゅうり、好きなんだな」 「……えっと、お世話になってます」 恥ずかしがるにとり。 彼女のリュックサックの中には、きゅうりが五~六本入ってる。 やはりかなり好きらしい。 「……一言だけ、言っておくが」 「? なんですか?」 家に寄る事になるんだったら、いつか言うことになるんだ。 今の内に言っておこう。 「人間だって言うだけで全てを決め付けるな、ってことだけ。 今現在の人間たちは、妖怪に対する考え方も変わってきてるらしいからな」 「……うん、解った」 と、笑顔でにとりは去っていた。 だけど、あいつとの話をにとりにしなきゃいけないのは、本当に嫌だなぁ。 天狗の役職をサボって、人間と遊んでるなんて……面目丸つぶれだしなぁ。 ――でも、人間に対する見解が深まるんだったら、別段、いいかもしれないな。 うpろだ594 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「にとり、俺と一緒に子供を開発してくれ」 8スレ目 778 ─────────────────────────────────────────────────────────── ニトリ!!俺と一緒に相撲しないか?もちろんまわしつけて 8スレ目 825 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「・・・不気味な山だ、芋くさい娘や黒いオーラのフリフリ娘に遭遇しなきゃもっと印象良かったやもしれんのに」 ここは・・・山だな・・・それ以上の説明が出来ない 天狗がいると聞いたのにちっとも遭遇しないで変なのばかり出てくる 「・・・おい、さっきから後ろをちょろちょろしてる奴、いい加減出て来い」 姿は見えないがさっきから・・・10分ぐらい前からか、後をついてくる奴がいるのだ 監視されてる・・・観察・・・いい気分ではない 「・・・盟友よ、よくぞ見破った!」 「あ?」 木の陰から出てきたのはちっさい子供 レインコートにマ○オ見たいな帽子と長靴・・・がまの穂? 「盟友って・・・すまんが何処かで会ったか?」 「人間は盟友だ」 「・・・ああ、種族間でってこと・・・つまりお前さんは妖怪か何かか?」 「ん?私は河童だよ」 ああなるほど、完全防水と言う訳か 目の前の少女、もとい河童 敵意は無いらしく、見たままに無害らしい 「それよりも人間、この先は天狗の山、危険だから引き返したほうが身のためだぞ」 「・・・行くなと言われれば行きたくなるのが人の性ではなかろうか?」 「他人の言う事を素直に聞くのも人としては大切だと思うが?」 「・・・」 「・・・解った、そこまで行きたいなら私を倒していくんだね」 そう言い放つと、河童は地面に大きな円を書き始めた 拾った枝でがりがりと地面に円を書いていく・・・河童と言えばそう 「弾幕ごっこじゃいくらなんでも可哀想だからね、相撲で勝負だ!」 背負っていたリュックやポケットの工具類を置いて、長靴を脱いだ 向こうはやる気満々、だがコッチは 「俺が負けたら素直に帰るが・・・お前が負けたらなんかしてくれるのか?」 「お好きにどうぞ、勝てるわけ無いでしょ?」 「・・・」 体重なんか俺の3分の一ぐらいしかなさそうなこんな少女と相撲、普通ならば手加減するべきだろうが・・・ 「おい河童、本気で行くぞ」 「・・・はっけよーい ・ ・ ・ のこった!」 先手必勝、何かされる前に投げ飛ばすなり地面に叩きつけるなりしてしまえば 低空のタックル、河童の腹ぐらいの高さに何の遠慮もなしに突っ込んだ 「な―」 コッチは妖怪だから様子を見てくるかと予想した、しかし思い切りのいいタックル 彼の右肩が鳩尾に綺麗に入る、息が出来ない しかしそう思った瞬間、私の体はふわりと、浮いた 抱えられたと思ったら土俵の外に投げ出されたのだ 「お、おい・・・だいじょうぶか?」 「ぅ・・・はぁ、はぁ」 瞬殺、あっさり負けた、一面のボスが四面のボスのかませ犬にされたぐらいあっさり 「げほっ、げほ・・・酷いじゃ無いか盟友、コッチは可愛い女の子だよ?」 「いや、妖怪だと思うとつい・・・と言うか弱いのに何で相撲で勝負しようとか言い出したんだ?」 「いや、勝てるつもりだったんだけどね・・・あんたが速過ぎるよ」 何かをする前に、行動に起こす前に、負けた まぁただの人間がこんなところまでこれるわけないか 「・・・もう大丈夫か?」 「ん、まだ背中は痛いけど・・・それ以外は大丈夫」 「そうか・・・」 「なぁ・・・負けておいてなんだが・・・どうしても行くのか?」 「・・・河童がそこまで言うなら、止めておくかな」 俺を心配してくれているんだし、そこまで言われちゃ・・・ねぇ? それにただ天狗とやらを見てみたかっただけだし 「そうだ河童、お前っていつもここらへんにいるのか?」 「うん、たいていここらへんをブラブラしてるか天狗と遊んでる」 「そうか・・・じゃあまた来るよ、見つけたら今日みたいに止めてくれ」 「え?あ・・・うん、いいともー!」 「それじゃあ・・・お前、名前は?」 「ん?あ、そっか、互いに名前も知らなかったね」 「まったくだ・・・俺は○○、人間の○○」 「私はにとり、河童のにとり」 にとりと名乗った河童は、妖怪らしからぬ友好さで、俺にとって初めての妖怪の友になってくれた 「あー・・・じゃあな盟友にとり」 「うん、またね盟友○○」 木の葉の上をゆっくり歩いていく、途中何度か振り返ったが、その姿が見えなくなるまで、にとりは手を振っていてくれた 「おや、随分機嫌がいいじゃないか」 彼が見えなくなって少しすると、山の上の方から見知った天狗が降りてきた 「うん・・・友達が出来たんだ」 「へぇ・・・人間の?」 「うん・・・」 「人見知りのにとりに人間の友達が出来るなんて・・・おめでとう?と言うべきか」 周りから見て解るぐらいに機嫌がいい、頬も緩みっぱなしで 「私も会ってみたいな、その人間と」 「近いうちにまた来るって言ってたよ、天狗に会ってみたいとか言ってたからきっと喜ぶよ」 「そうか・・・友達になれるといいな」 「すぐになれるさ、彼は優しくて乱暴者の紳士だから」 ああ、彼が来るのはいつだろう? 明日か、明後日か、それとも一月先か お茶でも飲みながら話がしたい 早く椛に会わせて、その反応を見て見たい 退屈な日々で、先を楽しみにすると言うのはとても久しい感情だった 「おーい、ご在宅ー?」 天気が良いので縁側で茶を飲んでいた、そのところに聞きなれない声 勝手に上がってこない客は面倒ごとを抱えてる「客」だが・・・ 「あ、居るんなら返事して欲しいな」 「・・・この前の河童・・・だっけ?」 何処かで見覚えのある河童、そうたしかこの間・・・ 「それで・・・何か用かしら?」 「うん、ある人間の家を教えてもらいたいんだけど・・・」 人見知りで臆病者の河童が人間に何の用かと少し考えたが、私にはあまり関係ないことだと思い、詮索はやめた 「・・・そいつの名前は?」 「○○って言ってた」 「・・・どっかで聞いたような・・・なんか特徴ない?」 「えっとね・・・体がでかくて・・・うん、体が大きい」 まったく参考にならない、体が大きいだけで人がわかれば苦労しない 「・・・他には?」 「んー・・・相撲が強い?」 うん、知ったこっちゃないわ 「お、このあいだ私がボコした河童じゃ無いか」 「あー!このあいだ私を一方的にボコボコにした魔法使い!」 突然の来客、どうせ茶でも飲みに来たのだろう白黒の魔法使い 「あら魔理沙、茶なら出さないわよ」 「・・・邪魔したな」 くるりと体を返して帰ろうとした魔理沙を、一応引き止めた 「ねぇ、○○って知らない?でかくて相撲が強いんだってさ」 「あ?ああ、それなら・・・・茶+煎餅4枚」 「ノン、1枚」 「・・・2枚」 「オーケー、茶+煎餅2枚・・・それじゃあ案内頼むわね」 「任せとけ、よし、行くぞ河童」 「・・・巫女さん、ありがとね」 「感謝の気持ちがあるなら表の賽銭箱によろしくね」 そういうと河童も魔理沙も苦笑いしていた、何か変なことを言ったかしら? 魔理沙は「まぁ霊夢だし」と言っていたが・・・? 魔法使いの箒に乗せてもらい、彼の家まで運んでもらった 「とーちゃく・・・帰りはどうする?」 「んー・・・大丈夫、歩いて帰るよ」 「そっか、じゃあ気を付けて」 「うん、色々ありがとね」 こうやって話せば悪い人間ではないとよく解る、むしろいい人だ わざわざ送ってくれて、帰りの心配まで・・・第一印象だけじゃ解らないもんだね こうして知り合いが増えると言うのは、とても喜ばしい事であると、最近になって気づいた 「・・・おじゃましまーす」 「いらっしゃーい・・・おお、にとりじゃないか」 ・・・一瞬我が目を疑った 彼の店には所狭しと「菓子」が陳列してある 「・・・○○ってお菓子屋さん?」 「YES!珍しいと言うか変なお菓子を扱ってる」 青や赤の透明な飴玉、杖の様な容をした・・・これも飴? チョコレートやよく解らないお菓子が・・・いっぱい 「よく家が解ったな」 「うん、魔法使いに連れてきてもらったんだ」 そうだ、巫女と魔法使いにお菓子を買っていこうか、きっと喜んでくれる 「それで・・・何か用が有ったのか?」 「あ、うん・・・これ○○のじゃない?」 にとりはがさごそとリュックの中をあさって小さな鍵を取り出した 「これ、○○が落としたのかなと思って・・・」 その鍵は間違いなく俺の忘れ物だ、しかもとても大切なもの 「おお!お前が拾ってくれたのか」 「はい・・・それって何の鍵?」 にとりは俺に鍵を渡すと、興味深そうに聞いてきた 「ああ、金庫の鍵だ、俺の全財産が常に入れてある」 あの時落としてから今日までお金が出せないでひもじい思いをしていたのだ これで一件落着と 「・・・ありがとな、礼と言っちゃなんだが珍菓子をぷれぜんとふぉーゆー」 紙袋を広げて菓子をつめていく 虹色の丸いキャンディー、ゼリービーンズ、サソリの入った飴など、変り種から美味しいものまで 「い、いいよそんなに」 「遠慮すんなよ」 「お、御礼が欲しくて届けたわけじゃないよ・・・友達だから・・・これぐらい当たり前だと思ったから・・・」 きっと彼女にはこういう機会がなかったんだな、と思った 彼女にとって友達とはきっと彼女の言う盟友とは違うものなんだ 盟友より近く、親しみを込めて「友達」と とりあえず帽子を取って頭を撫でておいた、何となくそうしたかったから 彼女は撫でられると嬉しそうに目を細めて、笑っていてくれた 「にとり・・・友達でもいい事をしたら誉められるし感謝もされる・・・それに俺はお前がそういう気持ちで届けてくれたのが嬉しいんだ、だから遠慮するな」 彼女が俺を友達と思ってそうしてくれたのがたまらなく嬉しかった だからこそ俺はちゃんと礼がしたかった、でも言葉にするのは少し恥ずかしくて、俺はにとり顔を見ないように菓子をつめていった 「気を付けて帰るんだぞ」 「うん、大丈夫・・・ねぇ、また遊びに来てもいい?」 「もちろん、次はゆっくりお茶でも飲もうな」 「うん・・・それじゃ」 「ああ、またな」 彼女は帰っていった、手に持った蝦蟇の穂を振り回しながら リュックに詰まった甘いお菓子を、彼女がどうするのか 誰かと一緒に食べるならいいな、何て思ったりもしなかったり 「・・・魔理沙」 「なんだ霊夢」 「賽銭箱の上にお菓子が置いてあった」 霊夢の手には変わった・・・弾幕のようにカラフルなお菓子が 何処かで見たような・・・ああ、たしか○○の店の 「河童のお礼だろ・・・お金が良かったか?」 「いや、貰える物は何でもありがたく頂くわ」 霊夢はクリアブルーの飴を一つ、口に放り込んだ 私も一つ、食べてみた 「・・・甘い・・・美味い」 「こりゃいいな・・・うんうん」 二人してもごもごと口の中味わって、一つの結論に行き着いた 「ねぇ魔理沙、今度あったらあの河童をお茶に誘ってみようと思うの」 霊夢は、この貢物を気に入ったらしく、珍しい発言をしてくれた だから私も、この素敵な贈り物に、便乗させてもらおう 「そいつは奇遇だな、私もそう思ってたところだ」 end 11スレ目 955 969 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「にとりー」 にとりのいる山に遊びに来たのだが・・・留守のようである 「ここらへんにくれば判ると言っていたのに・・・やっぱり留守か」 しょうがないので辺りをふらついてみる事にした そういえば以前にとりに止められてこの先に入らなかったんだったな 「ちょっと入ってみるか」 深く考えず、好奇心のまま山に入ることにした 木の葉は厚く積み重なっている もう秋も終わりこの山も寂しくなる、そう思うとこの光景がとても珍しいもののように思えた 冬が来れば葉は落ちて、雪が積もり、滝だって凍ってしまうのではないだろうか ああ、寒いのは苦手だ 蛇や熊みたいに冬眠できればいいのに 「そこの人間、ここより先は天狗の山、なに用に来られた」 「あ?」 剣と盾と・・・犬? 頭にへんな帽子をかぶってるので恐らくは・・・天狗か?というか今天狗の山がどうこう言ってたしな 「あー・・・別に用は無い、ただ友人を待つ間の暇つぶしに散歩していただけだ」 「そうか、敵意が無いのならこちらからは手を出さない、早急に立ち去られるが良かろう」 俺は特に用があったわけではないので、すんなり引き返そうとしたのだが 「ちょ、ちょっと待って!」 なぜか引き止められたのだ 帰れといったり待てといったり、忙しい天狗だ 「その友人とはもしかして・・・河童か?」 「へ?あ、ああ・・・その通りだが・・・?」 「ああ、なるほど・・・にとりの御友人でしたか」 「・・・ああ、にとりのいってた天狗の友人は君の事か?」 「はい、申し遅れました私 犬走椛、ここらの見回りをやってます」 「これはご丁寧にどうも、俺は○○、里で自営業を少々」 椛と名乗った天狗はにとりと親しいらしく、よく一緒に暇つぶしをしているらしい そして友達の友達だから、今日から私たちも友達だと、言ってくれた 幻想郷に来て数年、何処か馴染めないでいた俺には、そんな一言だけでこの場所になじめたような気がした しかし・・・親しい知り合いが河童に天狗に魔法使いか・・・まぁ幻想郷らしいといえばそうなのだが 「あ、○―!?」 思わず身を隠してしまった ただ椛と○○が話していただけなのに、なぜか いつも難しそうな顔をしている椛が、楽しそうにしている、本来喜ぶべき事だ、○○と椛が仲良くしてくれているんだ それなのに、なんでだろう?なんだか、もやもやする ああそうか、これはきっと嫉妬なんだ 私、○○の事が・・・ 「ははは・・・私は」 こんなに嫌な奴だったんだ、大事な友達なのに、今までずっと一緒にいてくれたのに どうすればいいんだろう 「・・・いつまで隠れてるつもり?」 「・・・そうだよね、椛は鼻がいいんだったね」 既に○○は帰った後だった、椛は私が出てきてくれるのを待っていてくれたんだ、待ちきれなかったみたいだけど 「・・・何か会いたくない事情でもあったの?」 「ううん・・・なんでもない」 「・・・彼、会いたがってたよ」 「うん、私も会いたかった」 椛は凄く、困惑している・・・というより心配してくれてるんだ 「もうちょっと・・・気持ちに整理がついたら・・・だから、今は会えないんだ」 だってこのままじゃ、○○とは友達でいられないし、もしかしたら椛とも 「・・・椛、私たちずっと友達だよね?」 「当たり前じゃ無いか・・・にとりは大事な友達だよ」 図々しいかもしれないし甘えているだけかもしれない、でも今は友達の優しさに身をゆだねていたかった end 12スレ目 21 ─────────────────────────────────────────────────────────── に「おーい、にんげーん!」 自「もう人間はやめてくれないか」 に「つい癖でね、あはは」 自「それがお弁当?」 に「ふっふっふ、私の愛のこもった手作り弁当を堪能しろい!」 自「これは…、きゅうり!これも…、きゅうり!」 に「じゃあこれは?」 自「きゅうり!」 に「ちゃんとスライスしてあるだろー、ちゃんと見ろー」 自「あ、あぁ…」 に「嫌い?」 自「好きだよ(キリッ」 に「じゃあ食べよう。いっただっきまーす」 しゃく… しゃくしゃく… しゃく… しゃくしゃく… しゃく… しゃく… しゃくしゃく… しゃく… しゃくしゃく… 自「ハァー…ハァー…(シャク…」 に「なにハァハァ言ってんの?さては私にヨクジョーしてるな!こいつぅ~w」 自「ハァー…ハァー…(シャクシャク…」 に「なんでブルブルしだしてんの?平気か?」 自「…あ、あぁ、!全然平気だぜ!?いやぁにとりの手作り弁当最高だぜ!」 に「そ、そうか!明日も頑張って作ってくるな!あはははは☆」 自「…」 11スレ目 318 ─────────────────────────────────────────────────────────── 人生の盟友にならないか? 12スレ目 992 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ただいまー……あれ?」 戸を開けて家の中に入る。 もう外は暗くなってきたが、灯りがついていない。 入り口の横にあるスイッチで電灯を点ける。 ……一応言っておくが、ここは幻想郷だ。 外の世界から迷い込んで、この川縁の小屋で一人暮らしをしていた頃は、 こんな文明的な設備はなかった。 きっかけは、ある日川上から流れてきた少女を助けたことだった。 彼女―河城にとりという名の河童だと自ら名乗ったが、脚がつってうっかり流されたという時点で大いにうそ臭い。 ともかく、助けてもらった礼だと言って、にとりは我が家の文明レベルを数日かけて格段に引き上げた。 今では水力発電で動力を供給された機械たちがひしめいている。 「いいっていいって、だって友達でしょ?」 感心しつつ、あべこべに礼を言う俺に彼女はそう答えたものだ。 それから、外の世界の機械の話(半分くらいはフィクションなのだが、ちゃんと伝わったろうか?)をしたりしている内に だんだん仲良くなって、いつのまにかにとりはこの家にいついていた。 「気にしない気にしない、だって友達じゃない!」 帰らなくていいのか、と尋ねる俺に彼女はそう言ったものだ。 で、帰ってきてみるといるはずのにとりがいない。 特に出かけるという話もなかったのだが。 ついに家に帰ったのだろうか?あるのかどうかも知らないが。 (……ん?) 部屋の隅に、見慣れた水色のスカートの裾だけが見える。 あのポケットは間違いない。 問題は、それが空中に浮いていることだ。 (ははあ、これが例の……) 声には出さず、心の中で納得する。以前ちらっと話していた、光学迷彩というやつなのだろう。 どうやら俺を驚かせてやろうというつもりらしいが、服の裾だけが隠れていないのでばればれだ。 それならこっちにも考えがある。 「あー、にとりいないのか……せっかく農家の手伝いして、いいキュウリもらってきたのになー」 棒読みだが、キュウリをもらってきたのは本当だ。 持っていたざるをこれ見よがしに机に置く。 服の裾がぴくりと動いた。 「一緒に食べたかったんだけどしょうがない、一人で食べるか」 さらに大きく動く。 飛び出さないのはさすがだが、それでも実にわかりやすい。 「……やっぱり待つか」 食べるふりまでしてみようかと思っていたが、 何だか気の毒になってきたのでやめた。 だいぶ時間が過ぎた。にとりはまだ動かない。 出るタイミングを失っているらしいが、それは俺も同じだ。 実は最初から見えてた、と言ってしまえばそれでいいはずなのだが、 どうにもこちらからは言い出しづらくなっている。 なので、少し思い切って誘いをかけてみることにした。 「にとり帰ってこないな……もしかして、俺に愛想つかして出て行ったのかな……」 ―反応は、ない。 「友達だって言ってたのになあ……でも仕方ないよな、あきらめるか、寂しくなるな……」 ―やはり反応はない……かと思ったが。 「すん……ぐすっ…………ううっ……」 何もない(ように見える)空間からすすり泣く声が聞こえてくる。 しまった。やりすぎたか。 「……あー、にとり?」 「ぐずっ……ふぇ?な、何で私がここにいるって……」 「いや、実は帰ってきたときからそこにいるってわかってたんだけど……」 「………………ええっ?」 一瞬の沈黙。そして。 「―どうしてもっと早く言ってくれなかったのさーっ!?」 なんで俺が怒られるのか。そもそも最初に隠れていたのはお前の方じゃないのか。 泣かせてしまった時点でそういう突っ込みはできない。 「……ごめんなさい」 俺は素直に謝ることにした。 にとりは、涙の跡もそのままにぽりぽりとキュウリをかじっている。 もう光学迷彩スーツは着ていない。 半分ずつ食べようと思っていたキュウリだが、一本だけもらって後はにとりにやることにした。 そのかいあって、なんとか落ち着いてくれたようだ。 「ねえ、○○」 「ん?」 キュウリを食べる手を止め、にとりが声をかけてくる。 「もし私が急にいなくなったら、○○は私のことなんか忘れちゃう?」 普段あまり見ない真剣な目でこちらを見つめながら問いかけてきた。 「この間も一人の時、前に○○から聞いた『頭につけて空を飛ぶプロペラ』作って、 試しに使ってみたら制御不能で遠くまで飛ばされちゃったんだ。 何とか○○が帰るまでに戻ってこれたけど」 制御する手前まではできたんだ。実物は外の世界にもないのに ……いや、問題はそこじゃない。そんなことがあったとは。 「もし戻って来れないくらい遠くに行ったりしたら、 ○○はもう私の友達でいてくれないかな?」 さっき俺が何気なく言った一言は、思った以上ににとりを不安にさせていたらしい。 想像してみる。 ある日突然にとりがいなくなって、光学迷彩で隠れてるわけでもなくて、いつまで経っても戻ってこなかったら。 機械好きで、明るいけどちょっと引っ込み思案で、でも人懐っこいにとり。 改めて考えてみると、にとりがいない暮らしなんてもう考えられないと気付く。 「……いや、探しに出かけるよ。どこまでも探しに行く」 俺の答えに、にとりはほっとしたようだ。 だが、気付かされたことはそれだけじゃない。 「でも友達だからじゃなくて」 しっかりと目を見つめて、口を開く。 「にとりのことが好きだからだ」 ……言ってしまった。 にとりは一瞬意味が飲み込めなかったようだが、 やがて顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 「…………で、でも……私、河童だよ?人間じゃないんだよ?」 消え入りそうな声で、にとりが言う。 「正直今でも俺の中の河童のイメージとお前が結びつかないけど、 お前が人間じゃなくても関係ない」 「河童と人間は友達だから、一緒にいられるけど…… それ以上の関係になっても、一緒にいていいの? それ以上の関係になっていいの? 私なんかで本当にいいの?」 堰を切ったようにまくし立ててくる。 「いいとか、悪いとかじゃない。 にとりを愛してるんだ。 ……でも、もし迷惑なら」 ここまで言って、急に不安になってきた俺の言葉をさえぎるように、 にとりは俺の側に来た。 「……迷惑なんかじゃないよ」 ぎゅっと俺の身体に腕を回して抱きついてくる。 「私も、○○のこと好きだから。 ずっと、ずっと前から好きだから」 安心したような顔で、俺の胸に顔を埋めているにとり。 俺もその背中に手を回して抱きしめる。 やがてどちらからともなく、唇を合わせた。 ほのかなキュウリの味と、甘いにとりの味がした。 うpろだ1052 ─────────────────────────────────────────────────────────── がちゃがちゃと、家の鍵を弄くる音がした 白黒なら問答無用で吹っ飛ばしているだろう 合鍵を渡すよな関係の奴は居ない この世界でピッキングが出来る奴を探してみたが、誰も思い浮かばなかった 「おー、噂どおりだな」 きしんだ音を立てて開かれた我が家のドア そこから現れた緑色の帽子、水色の服 ああ、そういえばこいつがいたな、と思い出したように 「○○ーげんき?」 「にとり・・・喉の上?鼻の奥?が痛い」 布団に寝ている俺を見て元気?など、見れば解るだろうと突っ込みたいが残念ながらそんな気力も無い 「風邪を治す機械は無いのか」 「あはは、医療系は苦手でね・・・きゅうり食べる?」 ポケットから取り出された緑の棒状の野菜 程よく人肌に温まったきゅうりなど食べる気にはならない 「遠慮しとく・・・それで、何用だ?」 「盟友が風邪ひいて寝込んでるって噂を聞いてね、これは見舞いに行かないわけにはいかないでしょーと思い・・・」 「・・・ありがとな」 気持ちは嬉しい こういうときに他人の優しさはすごく、沁みる 「洗濯物とかいろいろやっとくからさ、ゆっくり寝ててよ」 「あー、ありがとう・・・お言葉に甘える」 既にまどろんだよな意識だったからか すんなりと、意識を手放し、眠りに落ちた 「よっし、やっぱり男一人暮らしは宜しくないね」 埃のたまった部屋、ろくに整理されて無い衣類 ある程度片付け終わって、一息ついた 「・・・○○」 寝室に行ってみると、熟睡していた 上下する胸、微かに聞こえる寝息、苦しそうな表情 「人間は難儀だねぇ、風邪一つでこんなに」 今一瞬、悪い考えが頭をよぎった これなら、何をしても起きないんじゃないか、と 「だ、駄目駄目!○○は病気で床に臥せっているのにそんな破廉恥な事を私は」 ○○の唇、自然と目が行ったそこは、乾いていて 「く、唇割れると痛いもんねっ!」 相当苦しい言い訳をして 彼に、覆いかぶさった 翌日 「にーとーり、風邪引いたって?」 まさか、人間の風邪が移るとはおもわなんだ 反対に○○は完全に調子を取り戻したらしく、ぴんぴんしている 「○○・・・これは絶対あんたの風邪だね」 「人に移すと治るって、本当らしいな」 ○○は笑っているが、片手にはきゅうりの入った袋、なんとも嬉しい見舞いの品か 「治してやろうか?」 「・・・え?」 「お前が俺にしたことを、お前にしてやれば治るんじゃねー?」 熱があったのは認める、確かに顔は赤かったかもしれない だが、一瞬で身体ごと、かぁっ、っと熱くなった 「あ、うぁ、うえあ」 「その反応だと、やっぱり夢じゃなかったのか」 どうやら墓穴を掘ったらしい 墓穴でもいいから、穴があったら入りたい 「○、○・・・んぅっ」 もう身体が熱る原因が風邪なのか○○なのか わたしの上手くまわらない頭では、何がなんだかわからなくなっていた うpろだ1122 ─────────────────────────────────────────────────────────── 私が○○に会う事が出来たのは、それから少したってからだった からんころん、店のドアを開けると可愛らしい鐘の音が鳴った 「いらっしゃ・・・」 「やぁ○○、久方ぶりだね」 彼は相当驚いたらしい、目をヤモリのように丸くしていた 「にとり・・・何度か天狗の山まで行ったんだが」 「うん、椛に聞いたよ、ごめんね留守にしてて」 嘘、彼が来るたびに、隠れて、逃げて そのたびに椛に心配をさせてしまった 何となく、会う気になれなかったんだ 「いやぁ良かった、てっきり避けられてるのかと思ってたぜ」 やはり、彼は勘がいい 只者ではないと思っていたが、変な所で勘が働く 「そ、そんなわけ無いよ!それより、椛とはどう?」 「ん?ああ・・・うん、いい奴だよな、このあいだ菓子をやったときなんか尻尾振ってたよ」 「あはは、可愛いでしょ?耳なんかピコピコさせて」 「ああ、確かに可愛いよなぁ」 じくじくと、胸が痛んだ 彼が椛を可愛いといったのが、苦しい 自分で話しを振っておいて、しかもそんな些細な事で 嫌だな、私は 「それじゃあ・・・」 「おいおい、もうちょっとゆっくりしていけよ」 「そうしたいのは山々なんだけど・・・巫女さんにお茶に誘われてるから」 「そ、そうか・・・それなら」 「それで、こんなにお菓子を貰ってきたわけね」 「あはは、流石に多いよね」 縁側に腰掛けて、霊夢と二人、茶を飲む 今日は白黒はいないらしく、実に静かだ 「・・・それで、何か話したい事があるからきたんでしょ?」 「うぁ、さすが巫女さん、鋭いっすね」 きっと読心術でも使えるのだろう もしくは妖怪の考えなどお見通しなのかもしれない 「まだ日は浅いけどさ・・・友達でしょ?」 ぎしり、と音を立てて、停止した しこうと、肉体と、心が 「あ、う、ぁ・・・うぁぁぁ」 零れ出る涙、勝手に出てくる、止められない 「ちょ、ちょ、何で泣くのよっ!?ああもう、ほら、よしよし」 「れい、む、ごめ、ひぐ、うぇぇぇん」 霊夢は優しく、抱きしめてくれた 背中をさすってもらって、凄く安心して、また泣いてしまった 「・・・落ち着いたみたいね」 「う、うん・・・ごめん・・・ありがとう」 ひとしきり泣いて、すっきりしたらしく、だいぶ落ち着きを取り戻した にとりがいきなり泣き出した理由は・・・まぁ私のクサイ台詞に原因が無いとも言い切れない 「さて、落ち着いた所で・・・話してみてよ」 かくかく、しかじか~少女悩み相談中~ つまり、友達と○○が話しているところを見て嫌な気分になった自分が嫌 それが気まずくて○○と会えなかった 嫉妬した相手、その友達は自分が悩んでいるときに優しく相談に乗ってくれた それが余計に辛い ってことね(説明口調 「・・・私って、こんなに嫌な妖怪だったんだなぁ」 「んー、別に、それは人間だって妖怪だって、もともと、誰でも持っている感情よ」 「・・・そう、かな」 「私だって、貴方だって、魔理沙だって、その○○だって、誰かを好きになって、悩んだり、嫉妬したり、泣いちゃったり そういうモンなのよ、色恋沙汰ってのは。それにあんたは、そういう黒い感情を、ちゃんとコントロールできたし、罪悪感も持ってるでしょう」 そう、そういう感情をコントロールできなかったり、抑えるつもりが無かったり そうすると、どっかの皆が大好きなヤンデレとかになっちゃうわけでしょう 「ねぇにとり、ってとりばやく陰鬱な気分を吹き飛ばす方法を教えてあげるわ」 これが成功したら、悩みなんか忘れちゃうはずよ 「そそそ、そんなこと」 「大丈夫、私の読みがあっていれば・・・」 きゃぁきゃあと、修学旅行のように騒がしい縁側 それを少し離れた所から見ている影ひとつ その名も八雲紫、茶菓子を求めてきたのだが・・・ 「若いって・・・いいわねぇ」 何となく輪に入れなかったのであった 「たたたたのもー!」 乱暴に開けられた店のドア 鐘の音はならず、がちゃんという金属音がしただけだった 「にとり?・・・どうした」 「○○っ!貴方に決闘を申し込む!!」 「・・・は?」 にとりの言っている事が理解できず、処理落ちした いやちょっとまて、決闘と言ったか つまり・・・妖怪と戦え、と 「ふふふ、安心して、勝負の内容は・・・SUMOUよっ!」 嗚呼、少し会わない間ににとりはアホの子宜しく駄目な子になってしまっていたんだな 「・・・何か考えがあっての事か?」 「うん・・・だからこの勝負、受けて欲しい」 真剣な眼差し 目は赤くはれている、一目瞭然、ついさっきまで泣いていた奴の顔だ しかし、清々しい顔をしている 腹を括ったという感じの 「・・・解った、裏に行こうか」 何か知らんが、俺もにとりの覚悟に失礼のないように、腹を括って、全力を出そう 店の裏、ちょっと行くと広い空き地がある、まるで公園のような感じだ にとりは長靴を脱いではだしになり、レインコートも脱いだ 「・・・レインコートの下はスクール水着(旧式)だと期待してたのに」 「この勝負で勝てば、着てもいいよ」 下は普通の服だった、正直今年一番の残念賞だ 枝でがりがりと、地面に線をひき、土俵を作った 「・・・先月ぐらいの事なのに、ずっと昔のように感じるね」 「ああ、出会ったときが、こうだったな」 「負けたほうが」 「勝った方の言う事を聞く」 あの時と一緒だ だが、何となく勝てない気がする 「はっけよーい」 「「のこった!!」」 前と変わらない、何もさせない、突っ込んで吹っ飛ばして、終わり そう考えていたとき、ごごご、という地鳴りのような音に気付いた 「・・・え?」 水符「河童の幻想大瀑布」 「な――」 目の前にはドデカイ水、いや滝、いや、激流 だがそれは 「幻―」 水が偽者だとわかったときには、にとりの姿はなかった 「え?あいつ、どこに」 土俵の中にはその姿を見る事が、出来ない そのとき、俺は倒れた 何が起こったのかわからんが、いきなり倒れた 足を引っ張られたか、足払いでもされたか、そんな感じだったと思う 何もないと思っていたところから、すぅっとにとりが現れた 「なっ!?」 「えへへ、オプティカルカモフラージュ」 参った、正直河童の化学を舐めてた いまなら 河童の科学は世界一ィィィィィィ!!とでもいえる 「はぁ・・・それで・・・俺は何をすればいい?」 ○○さんは土俵に胡坐をかいて、私の言う事、を待っている 「はい、ではそのまま聞いていてください」 「・・・」 良いにとり?振られてもね、いわないと、こうかいするしかないのよ 言えばよかった後悔より、言っての後悔、さぁ言って来い! 霊夢さん・・・ありがとう、私は言うよ、言いたいから 「○○さん・・・・・・もし、良かったら・・・・・・私とお付き合いしてください!」 言ったぞ、言ったよ、言っちゃったよ ああ、なんていい気分、まだ返事も貰ってないのに、何かを終わらせた達成感 さぁ来い、今ならきっと、頑張れる だから、どっちでもいい、あなたの素直な気持ちが聞きたい 「にとり・・・俺はさ、元々天狗の友達が欲しかった。というか妖怪の友達が欲しくて思いついたのが天狗だっただけなんだけどな まぁ結果河童の友達が出来て、天狗のダチも出来て・・・正直嬉しかったよ」 彼は、こっちに来てあまり知り合いが出来なかったと言っていた、私とおなじだったのかもしれない 「それでだな・・・ええと・・・好きでもない奴のところに、しかも片道何十分もかかって、わざわざ行かないって」 「え?・・・それは、どういう」 「・・・俺も、いつの間にかお前のこと好きになってた、会えなくて寂しかったし・・・好きだにとり」 ぼそっと、恥ずかしそうに、最後に付け足された言葉、それだけで 「あ、う、あ・・・うぁ」 ぶしゅう、と音を立てて、頭から煙が出た 頭が真っ白になった 「告白すれば、悩んでた事もぜーんぶ、飛んで行くわ、結果が良くても、悪くてもね。成功したら・・・幸せすぎて全部忘れちゃうでしょうね」 あのときの、霊夢の言葉が、頭をよぎっていた 今解るのは、彼女の言葉は正しかったという事だ 「あらあら、お熱いわね」 少し遠くの空高く、紅白の巫女が、河童と人間を見守っていた 心配になってきて見れば二人は熱い抱擁を交わしているところだった 告白→おk!→にとり失神→○○が抱き抱える→にとり起きてそのまま抱擁 「よー霊夢!何してるん「シャラップ、見付かるでしょ」 現れたのは魔理沙、毎度ながら五月蝿い登場だ 「ん?うわ、アレって河城にとり?マジか・・・男がいたのかorz」 「よかったじゃ無い、友達に男が出来て」 「うあーどうせ私は独り身なんだー」 「・・・不本意ながら私もね」 「霊夢・・・お前にもそういう願望が在ったんだな」 「なかなか私につりあう男がいないのよ」 「言ってて虚しくないか?」 そんなことはない、私の心を射止められない男が悪いのだ しかし魔理沙のほうが意外・・・でもないか、恋色の魔法使いって自分で名乗ってるし 「・・・とりあえず帰ってお茶でも飲みましょうか」 「賛成だぜ」 貴女の分はない、というと魔理沙はぶーぶーと文句を言っていた にとりのほうを振った、遠目に見ても中睦まじい、羨ましい限りだ 私は心の中で、おめでとう、と祝福の言葉を送った 「・・・巫女に礼を言わなきゃなぁ」 「え・・・気付いてた?」 「当然、にとりがする行動にしちゃパワーがあると思ったからな」 「あはは・・・今度神社にお礼を言いに行かなきゃね」 「ああ、俺の分も礼を言っといてくれ」 茶菓子なら山ほどある、と なるほど確かに、だが緑茶向きではないなぁ、何て思ったりもした 「ふぁあ、やっぱり無理するもんじゃ無いなぁ」 気疲れして、大きく背伸びをした、慣れない事はするもんじゃ無い 「でもさ、無理してよかっただろ?」 「う、うんっ!」 それは、私も心のそこからそう思うのだ end うpろだ1183 ─────────────────────────────────────────────────────────── 山の中はこんなにも五月蝿いのか。 木々の葉が擦れ合う音、鳥や虫の鳴き声、吹き抜ける風の音。 全てが嫌に耳についた。普段なら気にも掛けないのに。 何故そんな風になっているかというと俺は今、迷いに迷っているからだ。 出口の見えないこの山腹からどのように脱出すればいいのかをね。 2、3日前山の上に神社があるということを友人から聞いた。 そこの巫女がたいそうな別嬪さんらしい。 行くしかない。これは俺の本能が下した決断であった。 そして3、4時間前、夏の日差しが容赦なく降り注いでくる中、俺は山へ入った。 妖怪のことなんて考えもせず、一人で何の用意もせずここまで来てしまった。 ましてやここが天狗の本拠地であったり鬼が居たりなんてことはまったく思いもしなかった。 多分長い間里に妖怪が襲ってきたことも無かったから、そんなこと頭の片隅へ消えてしまっていた。 何も考えずに森の風景を見ながら山の上の神社を目指していた。 しかし、しばらくして俺はやけに嫌な予感がして振り返ってみた。 ………………! 妖怪だ。妖怪が居る。俺の目線の先には妖怪がいる。 何故そいつが妖怪かと判るかって? ふん、爪が手より長くて、舌をダラ~ンと垂らして山の中を ふらふら歩いてるのが人間な訳無いだろ? 暗い森の中だと昼間から動いてるのだろうか。 一瞬でこんなことが分かっちゃう俺、めっちゃ頭いい~! と頭の中でファンファーレを鳴らしていると 目の前の妖怪はいきなり俺のほうに向かって走り出した。 そんな風にいきなり走り出すだなんてなんて落ち着きの無い野郎だ… ってここままだと俺、死ぬじゃん!! 「やぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」 俺は兎に角走った。走りつづけた。妖怪はまだ追いかけてくる。 自分でも驚くほどの速さで不安定な足場を走りつづけた。 しかし、しばらく走るといきなり木々が無くなり川原に踊り出た。 逃げ場が無くなった。後ろを振り向くと既に妖怪が俺に近づき始めていた。 俺はもうだめなのかもしれない。くそぉ、、、遣り残した事だらけだぜ。 地霊殿まだやってないし、緋想天もやってないし、風神録でEX行ってないし。 諦めかけたその瞬間、 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!!」 懐かしいフレーズが聞こえた。 その瞬間目の前の妖怪が倒れた。 「キューカンバードロップキック!!」 “空中元彌チョップ”なみにかっこ悪い名前が聞こえた。 すると妖怪が叫び声を上げたかと思うと、走って森の中へと逃げていった。 どうやら俺は助かったようだ。アイアムラッキーボーイ。 「ハァ…ハァ…何だかよくわからんが助かったぜ…」 その代わり、 「ひ、ひどい!今の盟友の勇士をその二つの目に刻み付けなかったのかい!?」 誰も居ないところから声がした。 あれ?俺、頭おかしくなっちゃったのかな…? 「返事ぐらいしてくれてもいいんじゃないかなぁ?一応君のこと助けたんだよ?ねぇ?」 やばい。本格的におかしくなってきた。 永遠亭のお医者様なら助けてくれるかもしれない。 帰ったらすぐ行こう。 「…はぁ。あんまり人前に出るのは苦手なんだけどねぇ…」 と声がした瞬間、目の前に何かが現れた。 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!また妖怪だぁっ!!!!!!!!!」 いきなり眼前に水色の髪の毛に緑の帽子、 雨合羽みたいな服にリュックサックを背負った奴が出てきた。 妖怪だ。こんな変な奴は里にいない。 恐怖で足が竦んだ。 「っ!?う、うるさいなっ、なんで大声でいきなり叫ぶのさっ!?」 と、その妖怪は俺に劣らぬ大声で叫んだ。 俺は恐怖とその勢いに押され眼前の妖怪を見ているだけで精一杯だった。 声も出ない。山の中で助けを呼んでも誰も来てくれそうに無いが。 もうだめなのか…と思いながら眼前の妖怪を定まらない視線で眺めていた。 あれ?女の子? こいつ女の子だ。 さっきの妖怪みたいな怪奇さがまるで無い。 普通に居そうな女の子。愛らしい瞳がこっちを見ている。 でもこいつ、どこから現れたんだ? 「…?どうしたの?ねぇ?黙りこくっちゃってさ。人間さんよぉ?」 ふと気付くといつの間にかにとりは川原の大きな岩の上に座り込んでいた。 「あ、ごめん。少し驚いてたんだ…。き、君は?」 無意識の内に俺はにとりの方へ歩み寄っていた。 「私は山河童のにとり。河城にとりさ。あんたこそ誰なんだい?こんな山奥に人間一人来るなんてさ」 「あぁ…。俺は〇〇。山の上の神社に行こうとしてたんだ」 「妖怪とかけっこしながらかい?」 おい。んなわけないだろ。 しかし、 「いや、途中で襲われちゃってさ。君が居なかったら死んでたよ。ありがとう」 「どういたしまして。…いや~、照れるね。あんまり人間と話すのは得意じゃないんだ」 このにとりという河童は、 「すごく気になったことがあるんだけど、いいかな?」 「なんだい?〇〇」 可愛い、 「さっきはどうやっていきなり俺の目の前に現れたんだ?」 「アレはねぇ…じゃじゃ~ん!光学迷彩すぅーつ!!」 半端無い可愛さだ。 「…?それは?」 「ふふ、これはね…」 それからしばらくの間、俺はにとりの河童の化学に説明を聞いていた。 それ以外にも河童と人間の関係だとかこの山についてのことも話してくれた。 にとりも人間の化学に興味があるようで俺にしきりにそのことについて聞いてきた。 話してるうちに俺はにとりが人間に友好的な妖怪なのだと確信した。 瞳を輝かせ、前のめりになって話を聞き入る様子を見ているとこっちまで楽しい気分になってきた。 時間も忘れて二人で話し合っていた。 しかし、熱中しすぎたお陰で気付いた頃にはもう日が傾いていた。 「やばい…今から帰ったら森の中で夜になっちまいそうだな…」 「む…うっかりしてたよ。すまない。私が気付くべきだったね」 にとりは腕を組み、少し考えたかと思うとすぐに何かを思いついたようだ。 「そうだ。確か〇〇は山の上の神社に行こうとしてたんだろ? その辺の天狗に訳を話して連れてって貰いなよ」 「え!?む、無理だって!!」 天狗に連れてって貰うだなんて、そんなことしたら 俺の幼女のように綺麗で繊細な心は恐怖で壊れてしまうじゃないか。 しかし、それ以外に方法はなさそうだ。 どうしたものか。 「にとりが一緒に神社までついて来てくれるっていうのはど、どうかなぁ~?な~んて」 「ええぇ!?あんな遠くまでかい!?やだよぉ」 ズッギュゥーーーン!!!! 俺は打たれた。胸のど真ん中を。 困った顔をするな。そんな困った顔をするんじゃない。 卑怯だぜ…可愛すぎる…(にや 「ん?いきなりにやにやするのは少し気持ちが悪いなぁ、〇〇」 「へ?あ、ああ、いや、これは、その、ち、違うんだ、ええと、、」 「…?」 あまりに狼狽しすぎたのか、にとりが不安がって俺を見上げる。 あ、その顔いいね。っておい! こんな不謹慎なことばっかり考えるんじゃないマイマインド! 安全に一夜を過ごす方法を考えるんだ! 「…そういえばにとりは何処に住んでるの?」 「ええと、それはどういう意味かな?まさか…」 ふふ、そのまさかさ。俺の超絶的(超絶望的)思考は瞬間にしていい方法を考え出した。 そう、にとりの塒で一緒に寝てやろうと思ったのだ。 ふふ、可愛かったら妖怪でも一緒に寝てやろうとする俺の根性にひれ伏すがいい! にとりの問いに俺が不敵な笑みを浮かべると彼女は俺の考えを理解したようだ。 「…〇〇、一応私はこれでも妖怪なんだよ?判ってる?」 「ああ、でもにとりは人を襲うような奴じゃないってさっき話してて感じたんだ」 「…。それはどうも。人間にそんなことを言われるとなんだか嬉しいね」 にとりは笑った。 しかし、表情は即座に険しくなった。 「だからって山に入ってきた人間をホイホイと自分の住処に入れるほど妖怪は懐が広くないよ」 静かで、強く、どこか悲しげな声。 俺は何も言えなかった。 「まあ、私の塒は狭いしね。どっちにしても二人は無理だよw」 「………じゃあ、俺はちょっと天狗を探してこようかな」 険しい表情から一転、またやさしい笑顔になったにとりに俺は出来るだけ明るく答えた。 「その必要は無いかも…」 空を見上げたにとりが呟いた。 俺も同じように空を見上げようとしたその瞬間、 「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン!!」 ドォォォォン。 ものすごい勢いで何かが空から降ってきた。 そしてこけた。川原なのに砂煙が立ち昇るほどで激しくぶつかってやがる。 死んでる? 「ごほっ、ごほっ、死んでなんかいませんYO!」 砂煙の中から黒髪の少女が現れた。 「どうも、烏天狗の射命丸文です」 「はぁ…どうも」 我ながら間抜けな返事をしてしまった。 なんだこいつは。にとりは少々呆れている。 「噂は聞きました。神社に行く途中に河童に襲われたそうで。お怪我はありませんか?」 「へ?!おいおい!私は〇〇を襲ってなんかいないよ!」 「あれ?噂は間違いでしたかな。これは椛を後で折檻しなきゃいけませんね…」 これ以上めんどくさい展開はごめんなので今までの経緯を 俺の超絶的な話術で幻想郷最速の説明をした。 まったく意味がわからないといわれたのでゆっくり二度目の説明をすることにした。 物分りが悪いぜ。天狗のお嬢さん。これで理解してくれたかな? 「…まったく話の順番が整ってません。よくにとりさんは理解できましたねw 〇〇さんには国語の力というものがまったくありませんよwww」 馬鹿なのは俺のほうだったようだ。 にとりが今度は懇切丁寧に説明してくれたのでどうにかなった。 恥ずかしい。可愛い女の子の前で恥をかくのは嫌なものだ。 「ふ~ん、そうですか。じゃあ〇〇さん、今から神社に行きましょう」 取材は神社の方で聞くことにします」 「へ?」 振り向いた時にはもう俺の体は宙に浮いていた。 「おい!!速い!速すぎるってぇぇぇぇぇっぇぇぇえ!!!!」 にとりに別れを告げることも出来ずに俺はつかの間の空の旅へと出発した。 「…〇〇と帰りにまた会えるかな?」 見送り付きで。 ・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ 烏天狗に誘拐された後神社で俺は一泊させて貰うことになった。 次の日には魔除けのお守りまで持たされた。実にいい巫女さんだった。 また今度来よう。 そう、いつしか俺は巫女さんに会うことよりにとりに再び会うことばかり考えていた。 俺はにとりに会うため急いで山を降りた。 だいぶ歩いた。太陽の位置がかなり移動している。 しかし、早くにとりに会いたいはずなのになんでこんなに歩くペースが落ちてるんだ? 最悪だ。眩暈がする。苦しい。こんなに気分が悪いのは初めてだ。 何でなんだろうか?朝はこんな調子じゃなかったのに。 俺はすぅっと自分の意識が薄らいでいくのが分かった。 畜生…もうダメだ… 刹那に俺は倒れた。頭に強い衝撃が走ったかと思うと意識を失った。 ・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ ふと目を開けると見慣れない岩肌の天井が現れた。 「…俺はどうなったんだ…」 「助かったんだよ、〇〇」 聞いたことのある声が耳に入ってきた。 「に、にとり!っ…!」 肩口に激痛が走る。 「あんまり大声を出さないほうがいいよ。体はまだ休まりきってないんだから」 「……俺はなんでここにいるんだ…?」 「…嫌な予感がしてね、森のほうへ行ってみたら〇〇が倒れてたのさ。びっくりしたよ。 多分ツツガ蟲にやられたんだろうね。変な熱が出てたし、頭からも血が出てたよ。 ほっとけないから私の塒に寝かして治療してたんだ」 「そうなのか…ありがとう、にとり。俺、にとりがいなかったら死んでたよ」 へへっと舌を出して恥ずかしそうに笑うにとり。 その姿を見ていたら何故か俺まで顔が綻んでいた。 不思議ともう体の痛みは感じなかった。 「もう日は暮れちゃったよ。今日もこの山で一泊しなきゃいけなくなっちゃたね」 「ふふっ、にとりの塒で過ごせるなら本望さ」 「………おかしな人間だねぇ……」 「どうしてだよ、可愛い女の子と一緒にいられるだけで俺は幸せなんだよ」 「…むぅ……」 何でさっきからあんまりにとりは機嫌が良くないんだ? 昨日はあんなに嬉しそうだったのに… 「〇〇、私は河童だよ」 「そんなの判ってるぜ」 「判ってない…判ってないよ…!」 不意ににとりの語調が厳しくなる。 「妖怪は所詮妖怪。人間は所詮人間。 住む世界が違うまったく違う生き物なんだよ…」 最後の方が聞き取れなかった。 にとりは泣いていた。 「本当は私だって〇〇ともっと一緒に…話がしたい…」 「じゃあ、すればいいだろう?」 俺は体の痛みも気にせず、にとりの傍へ向かう。 にとりは泣いていた。それはもうひどい有様であった。 「おい、可愛い顔が台無しだぞ」 「……〇〇はどうしてそんなことが言えるんだ…? 恥ずかしくないのか?それに私は妖怪なんだぞ…」 「…にとりに…俺はにとりに一目惚れした。理由はそれだけだ」 「……!」 にとりの目が見開く。 畳み掛けるように俺は言葉を紡ぐ。 「にとり!人間とか妖怪とかそんなんじゃねぇんだよ、好きになったんだ。 だからもっと一緒にいたい。話がしたい!!」 「……うっ…うわぁぁぁん!!」 「お、おいっ!?ど、どうした?何で泣く!?」 にとりは大声を上げて泣き始めた。 「うぅ…わ、わたしも〇〇のこと最初に見たときからなんか気になったの…。 で、でも私は妖怪だからって諦めてたんだよぉ…」 「大丈夫だ。俺は諦めてない」 何を言ってるのか自分でも分からなかった。いう言葉が見当たらない。 いうことないからちんちんとも言ってられない、一世一代の大勝負なのだから 一所懸命に言葉を探した。出でこんぞ。出てこない… …!! 「う、うわぁ!?いきなり、な、何をするっ!?」 俺は無言で後ろ向きににとりを抱きしめたのだ。 言うことが見つからなきゃ体で示したってことさ。 やっぱり俺、頭いい。 「にとり、もう離さんぞ」 「…私はトンでもない人間を好きになっちゃったみたいだね」 「当たり前だ。こんなイケメン、この山にはいねーぞ」 「……」 「冗談だよ」 にとりを抱きしめたまま俺は話し続けた。 このまま夜が明けてしまいそうな気さえした。 「にとり、好きだぜ…」 「ありがとぅ…」 それから他愛の無い話をした。 昨日と同じような話。ふたりについての話。 幸せだった。後悔無しだ。 ん?後悔? …む!! この体勢、俺は生かしきれていないっ!! そうだ、俺は今後ろからにとりを抱きしめている。 ということは誤魔化しながら少しずつおっ〇いを触れるんじゃなかろーか? これに気付いて実行せぬのは一生の後悔になる。 こういうときはLet s TRY!!すべきだ。ってけーねが言ってた。 「そうかぁ…〇〇もきゅうりが好きなのか」 「いや、にとりほどじゃないけどねw」 後少し…! 「里には緑色のビールは無いのか…」 「それビールじゃいないだろ…」 触れるぞ!後少しだぜ、軍曹! 「……!?……ね、ねぇ〇〇?」 「ん?」 「手が…さっきから怪しいよ…?」 「…!!……な、何のことだよ!?マ、マイハニーっ!?」 なっ!?ば、ばれた!? 申し訳ありません、軍曹! 不肖〇〇、妖怪の山にて散ってしまいそうです… 「さ、触ってみる…?」 ん? 俺はやっぱり耳がおかしいのであろう。 「〇〇、き、聞いてるのか?本当に、さ、触ってもいいんだょ…」 最後になるに連れてか細くなってゆくにとりの声に俺の理性は吹っ飛んだ。 抑えられん。ここで抑えたら男、いや漢じゃない!! 「うぉぉぉっぷ…!!!」 初めての感触に俺の理性はぐるぐる巻きになってどっかに飛んでいった。 「が、が…我慢ならんっ!!」 「ん?うわぁ!?」 (ここからの続きを読むには俺が風神録でケロちゃんに会えたらね!) うpろだ1193 ─────────────────────────────────────────────────────────── 長月の終わりごろのこと――― 『八雲紫プレゼンツ!! あなたも恋人と一緒に外界を旅行してみませんか? 希望者は―――』 今、幻想郷はこの話題で持ちきりだ。 「―――なあ、にとり。」 作業場での仕事が終わってすぐのこと。 俺は休憩スペースでジョージア片手にテレビを見ながら我が恋人、――にとりに問いかける。 「んぁー?」 にとりは俺のズーマー(名をアーデルハイト、という)をバラしている最中なためか、生返事だった。 ……たった今、シートフレームまで外され、一見大き目のキックボードのような外見になった。そのままでも走れそうだ。 「俺たちは外界へ行ったりしないのか?」 「あー…やめといたほうがいいよ? 私たちはいつでもいけるし……」 作業を続けたまま答える。 あまり気乗りしないようである。 「確かに行こうと思えば俺たちは行けるけど……」 妖怪の山の内部は要塞になっているわけだが、内部には外に通じる穴、というものもあり外界の各地へ出ることができる。 元・外来人の俺は引率者としてにとりや、他の河童さんたちを連れてよく外の世界に行く。 目的は技術を学んだり普通に観光したり、と様々だ。 河童さんや天狗さんたちからもらえるチップ、おいしいです(^q^) 俺の密かな収入源だったりする。 「いやあ……だって……この前紫が私たち河童にある『モノ』を作って欲しい、って来たんだけどなんだと思う?」 「そういえば最近技術開発部のやつらがなんか作ってたが……わかんねえな……なんだ?」 「……『追跡機能とステレス機能を持ったビデオカメラ』……」 「へ?」 それは……またあからさまな…… 「目的は明らかに盗撮だよ?」 作業をしながら俺に言う。 あ、プーリー交換もしてくれるんですか。ありがたいです。ウェイトの調整ってシビアだけどがんばってね? 「……かもな……」 「まあ、ぶっちゃけ目的は聞いてるんだけどね?」 にとりの話によると、何でも霜月の初めの宴会で余興として放映するんだと。 なんとまあ……たちの悪い話だ。 「……○○は……行きたいの……?」 正直、すごく行きたい。 確かに、外界はいつでも行ける俺らは、今回の企画にホイホイついていく必要はない。 企画の全貌を知っているだけになおさら、だ。 だが、普段の場合は、実は一日以上外界に居てはいけない、という制限つきだ。 今回の企画はそれに対して一月。魅力的な長さではないだろうか。 それに、普段は引率という身分からにとりと存分にイチャつけない。 ああ!存分にイチャつきてえんだ!!!! 「と、いうわけでお前と、2人っきりで外に行きたいんだ。」 その旨を伝えると、にとりの手がぴたり、と止まった。 「………うーん……」 やっぱり企画内容を知ってるだけに、躊躇われるか。 まあ、ダメならダメでいいか。にとりの嫌がることは基本的にしないのが俺の流儀だ。 「やっぱり嫌だよな。うん。ならいい。もともとだめもとだったから。だから……「いんや、いいよ。」 俺の言葉を遮るようににとりは言った。 そして、作業をやめ、俺の方に来て同じベンチに座るのだった。 「……え?……それは……一緒に行こう、ってこと?」 「うん。よく考えたら断る理由ないしね。確かに一月の旅は魅力的だもんね。」 「……見られるの、嫌じゃなかったのか?」 「いつ嫌って言った? むしろさあ……見せ付けちゃおうよ、ねえ。」 そう言って、俺に抱きつき、軽く口付ける。 「私だって外界でやりたいこと、あるしね。」 「やりたいこと?」 「まあ、それはあとでのお楽しみ。 ねえ、行こうよ、○○。イチャイチャしようよw」 「ああ。おkだ。みんなの中で一番イチャつこうなw」 「ふふ、 みんなに引かれない程度にねw」 お返しに今度はこちらから口付ける。今度は濃厚なキス。そして、2人の影は重なり―― 『そこまでよ!』に引っかかりました。この先を見るにはワッフルが云々。 そんなこんなで、俺らも外界に行くことにした。 ――――― キング・クリムゾン!! 旅行中俺がにとりとイチャついたという時間は吹き飛んだ…… ――――― 霜月の初めごろのこと――― 俺とにとりの旅の様子が放映されたのだが…… 「『そこまでよ!』ばっかりじゃねえか!!」 みんながぽかん、としてる中、空を裂くように黒白の魔女はそう、不満を述べた。 魔理沙の言うとおり、『そこまでよ!』が他の追随を許さず多かった。 他の幻想郷住人は一月のうち、多い組でもせいぜい4、5回程度だったのだが、俺らは一週間に4、5回程度だった。 「ふむ……さすがに多かったか。」 「…………うぅ………」 出発前の威勢はどこへやら、さすがに恥ずかしかったのかにとりはうつむいている。 「……○○ぅ~……ちょーはずい~」 涙目で抱きついてくるにとり。ああ、かわいすぎだろ、jk。 「いや……でも……ほら、見せつけるんじゃなかったのか?」 「確かにそう言ったけど!」 「肝心のシーンはカットされてたけどな……」 「放映されてたまるか!!……うぅ……」 涙を拭くように、顔を俺になすりつけてくる。 そして、少々落ち着いてから言う。 「……でも、」 「でも?」 「行ってよかったとは思ってるよ? ○○とは、夫婦になれたし……w」 そう、俺たちは夫婦となった。 にとりのやりたかったこと、それは俺の両親に挨拶、そして小さいながらも結婚式だった。 そして、俺はその望みを叶えてやったのだ。……俺もそう望んでたし。 しかし……改めて意識すると…… 「…………」 顔からマスタースパークDA!くらい恥ずかしい。 「○○顔あかーい!!ww」 「うるせぇ!酒だ酒!!酒の所為だ!ww畜生!!……不束者ですが、よろしくお願いします。」 「あはは、こっちこそ、よろしくww」 こうして、また『そこまでよ!』的に夜が更けていくのであった。 めでたしに限りなく近い何か。 ――――約十ヶ月後のこと、俺たちに対抗意識を燃やしたためか幻想郷にベビーブームが到来するのはまた別のお話。 ―設定、と言う名の後付― ○○:人間。外来人。多分主人公。 山でエンジニアとして働いてる。 ある日、みょんなことから幻想郷に迷い込む。しかも妖怪の山に。 そこでにとりに助けられて、それで(省略されました。希望があったら表示されます。甘いです。表示するにはメル欄ににっとりにっとりしてください。)で、現在に至る。 にとり:妖怪。河童。多分ヒロイン。 ○○の嫁。『そこまでよ!』が多かったのは「河童だからえろいんだろうな……エロガッパって言う言葉あるし。」という安直な考えによるもの。俺の妄想は大半が『そこまでよ!』に引っかかる。 それにしても『そこまでよ!』って便利だな。 ちなみに、恋人になる段階では告白は○○からだが、結婚しよう、はにとりから。 まあ、両親に挨拶に行く話があるのだが……(省略されました。希望があったら表示されます。甘いです。表示するにはメル欄ににっとりにっとりしてください。) 新ろだ87 ───────────────────────────────────────────────────────────